Senobi

私立の中高一貫校で国語を教えています。国際バカロレア、子どものための哲学、ワークショップ型の授業づくりに関心があります。

川崎の国語同好会に参加しました

先日は川崎の国語同好会に参加してきました。

テーマは「国際バカロレアの授業づくり」ということで、先日発売した本の内容についての発表がありました。(私は発表を聞いている側)

 

本を作っているときから、IB以外の国語科の先生方にも読んでほしい、との思いがあり、できるだけ噛み砕いて説明することを意識してきました。

けれど改めて(客観的に)発表を聞いていると、やっぱり難しいという印象が先に来てしまいました。

 

重要概念、関連概念、グローバルな文脈、ATL…立て続けにどんどん言われても、なかなか頭に入ってきません。

 

私は勤務校では、仕事としてやらなければならないという義務感もあり、3年くらいかけて、実践しながらゆっくり納得してきました。

果たしてIB校でない先生方に、その良さをどのようにお伝えするのが有効か

 

今回の発表では、また昨日のワークショップでも、テキストを決めて、そのテキストと概念を結びつける、という方法がとられていました。

「概念ベース」を体験するのに、IB校以外の先生方にとっても無理のない方法なのかなと思います。

この方向性で、もっと効果的なやり方はないのか、校内研修もあるので検討してみたいと思いました。

 

ある参加者の先生から、

教科書教材を読んで作文を書かせたいときに、この概念のリストを渡し、生徒に作文の内容を検討させるのはどうか、というアイデアが出ました。

 

日本の中学校での応用として、とても良いと思いました。

このように、みんなで「いいとこ取り」していくと、国語のアプローチも広がって楽しいのではないでしょうか。

 

 

IBでの単元の作り方

国語の授業で「単元を作る」というと、教科書に掲載された教材をもとにして、テキストベースで考えるのが一般的です。

 

1年間で考えてみると、時々は教科書を離れた単元を組むこともあるでしょうが、概ね教科書の目次に沿って単元設計をしていく先生が多いのではないでしょうか。

 

IBのカリキュラムでは、授業は概念ベースであることが求められています。テキスト内容を教えて終わり、とはなりません。そもそも教科書がありません。

 

そこでMYP(中等教育プログラム)では、扱う概念や、概念的な「探究テーマ」を設定し、そこから授業内容の検討、扱う教材の選定を行なっていきます。

 

さて、今回のワークショップではDP(ディプロマ・プログラム)が、これまでより概念ベースになったことが示されました。

ワークショップ内で検討されたDPの単元の作り方は、IB以外の授業設計にも十分応用可能だと思いますので、紹介します。

 

今回ワークショップで取り上げられた単元の作り方は、次の3つです。

 

①概念をもとにつくる

②グローバルな問題をもとにつくる

③テキストをもとにつくる

 

それぞれ見ていきましょう。

 

①概念をもとにつくる

 

IBの授業では、コース内で扱うべき抽象度の高い概念が示されています。

重要とされているのは、次の7つの概念です。

アイデンティティ

・文化

・創造性

・コミュニケーション

・観点

・変換

・表現

 

教師は、まず生徒の状況をふまえて、扱いたい概念を決め、それにふさわしいテキストを選択していきます。

 

一番「概念ベース」の作り方なのですが、スタートが抽象的すぎてなかなかテキストを探しにくいのが難点です。

 

②グローバルな問題をもとにつくる

 

ここでいうグローバルな問題とは、ジェンダー、民族、戦争、環境問題、といった今まさに世界で問題となっているようなことです。

教師は、生徒と共に考えたい問題を選び、それにふさわしいテキストを選択します。

 

③テキストをもとにつくる

 

今回のワークショップでは、「間テキスト相互作用」という用語が頻出しました。

テキストをもとにするといっても、1つのテキストだけを取り上げて単元を終わりにするのではなく、

そのテキストにどういった「非文学テキスト(写真、映像、ウェブなど)」を組み合わせ、生徒とどういう探究をするか、検討します。

 

①〜③いずれにしても、教師の側で沢山の引き出しを持っていることが求められます。

 

一人ではアイデアが偏るので、教科内外の先生たちと、情報交換を積極的にしていくことが大事です。

こういうことを一人で考えていても、あんまり面白くないんですよね…。

そのために、教員間でのコミュニケーションや、気楽に自由に意見交換できる教科会の実施が不可欠です。

 

 

Language & Literature 新カリキュラム

週末3日間、神戸でIBワークショップに参加してきました。

 

膨大なインプットと、それに負けない参加者のみなさんの熱意により、

大変充実した3日間を過ごすことができました。

 

さて、DPのLanguage & Literature(言語と文学)は、この夏から新カリキュラムに移行します。(勤務校では来年度生から実施)

IBのカリキュラムは、およそ7年ごとに改定があります。

新しい教育研究の成果や、世の中の情勢の変化に合わせ、IBの教育課程もどんどん変化していきます。

日本の学習指導要領がおよそ10年ごとに変わるのと比べると、IBの方が変化が速いと言えます。

私の勤務校は最近IBを始めたばかりなので、私にとっては初の改定ですが、ワークショップでご一緒した長年IBを教えていらっしゃる先生は、「慣れてきた頃にはもう改定なのよ」とこぼしておられました。

 

さて今回の改定では、およそ次のようなところが大きな変更点です。

 

・2021年入試から新カリキュラム

・テキストベース、トピックベースの要素が強かったが、より概念ベースになった

・最終試験の内容が変わった

・「非文学テクスト」の扱いがより大きくなった

・実社会とのつながり、グローバルな問題との関わりが強調

された

ポートフォリオの作成が必須になった

 

IBでは、小説や詩歌などの文学教材だけでなく、「非文学テキスト」(絵画、写真、新聞、映画、マンガ、ブログ、広告…)を多く取り上げます。

それらの扱いがとても重要視されています。

 

今回の改定をもとにして、また教科内でコースアウトラインを検討します。

(現行カリキュラムでのコースアウトラインをせっかく作ったのに…)という思いはありますが、教師も常に学び続けるというのがIBの基本姿勢ですので、

また考え始めることにします!

 

生徒に、どんなテキストで探究したいか聞いてみるところから始めようかな。

 

 

 

Job Alikeに初参加

4月、5月は何かと忙しく、ブログの投稿がすっかり滞ってしまいました。

 

今年度、勤務校ではあたらしくMYPを担当する先生が多数いまして、

校内で、また教科内めIBについて、概念ベースの授業づくりについて学びあっています

新任の先生にIBをどう伝えていくか、校内研修のやり方についても、またいずれ書いてみたいと思っています。

 

さて、先日から神戸に来ています。

 

週末3日間、IBO(国際バカロレア機構)のオフィシャルワークショップに参加するためです。

 

それに先立って、同じ会場でJob Alikeも開催され、そちらに初めて参加することができました。

 

Job Alikeとは、IBで教えている先生たちの集まりです。

同じ教科の先生同士で集まって、情報の共有や授業アイデアのシェアを目的にしています。

 

今回私が参加したのは、言語A Japanese Language & Literatureのグループで、

国内外のインターナショナルスクールの先生や、一条校でIBに取り組んでいる先生方とお会いすることができました。

 

理論的な勉強も良いのですが、具体的な実践の共有はやはり楽しいですね。

DPの授業をどうしていくか、悩んでいたところだったので、いろんなヒントをいただくことができました。

また、私のやっている概念ベース授業づくり研究会も、要は同じことがやりたいんだなと再確認できました。

 

参加者のお一人から、ブログ読んでますよ、と言っていただき、

細々と書いていた記事が少しは役に立ったのかなと、うれしく思いました。

 

 

 

IB本が完成しました!

二年がかりで取り組んできた、IB・MYP「言語と文学」について解説した本がようやく完成し、本日私の家に届いていました。

 

『「探究」と「概念」で学びが変わる!  中学校国語科  国際バカロレアの授業づくり』

というタイトルで、明治図書出版から出ます。

 

IBのカリキュラムについては、公式ガイドブック(その日本語訳)を読んでもなかなか理解するのは難しく、また専門のワークショップの機会も限られています。

実際、どうやってIBの授業を組んで良いか分からない、そういう先生の役に立つだろうと思います。

 

また、この本は、IB校の先生にだけ向けて書いたものではありません。

多くの中学校(または高校)で使える、これからの授業づくりヒントがたくさん詰まっていると思います。

 

アマゾンでも予約が始まっています。

お手元に届くまでにはもう少しかかりますが、ご期待ください!

 

f:id:rofukohei:20190511235918j:plain

 

IBの授業づくりを説明する

IBの教科リーダーや、校内の授業研修を担当しています。

そのため、4月最初には、新任の先生や始めてIBの授業を受け持つ先生に対して、IBではどのように授業を設計するのかを説明し、理解してもらわなければなりません。

 

私も学びながら、試行錯誤しながらではありますが、今の理解の範囲で、年度初めに他の先生方にした説明は次のようなものです。

 

 

(授業経験のある先生方へ)

みなさんは、これまでどのような手順で授業を設計していますか?

(新任の先生へ)

大学の授業や教育実習で、どのような手順で授業を計画してきましたか?

 

まず教科書の中から教材を選んで、教材分析をして、問いや課題を考えていくと思います。

指導案には、その教材を通して身につけさせたい力や、学習指導要領に沿ったねらいを書きます。

 

このやり方で単元を設計すると、一つの教材で一単元、ということが多くなります。「走れメロス」で5時間、といった具合に。

 

IBでは、単元(ユニットと言います)をもっと広くとるのが一般的です。

 

設計の順番として一番違うのは、その単元を通してどのような探究をしたいのか、どういうことを考えさせたいのか、どんなことを理解してほしいのか、そういう目標を先に立てるということです。

これを「探究テーマ」と言います。

 

例えば、「論理的であるとはどういうことか」とか、

「読者は小説を通して教訓を読み取ることがある」

というように、抽象的で懐の広いテーマを設定します。

 

これは授業を計画する教師が自由に設定することができます。

「探究テーマ」は、一つのテキストにとどまらず、概念的であることが求められます。

(その時に用いる「概念」については、また後日説明します。)

 

そういう「探究テーマ」を立てた後で、

どのような学習活動や課題を通してそれを達成するか、

そのためにどういうテキストを使うか、

という順番でユニットを設計していきます。

 

単元(ユニット)を設計する順番が異なるのです。

 

一つのテキストから設計を始めると、発想がそのテキストの中だけでとどまってしまい、別のテキストと結びつけたり、探究的な課題を考えるのが難しくなります。(一つのテキストの深掘りになりがち)

 

最初からテーマを広く取っておくと、複数のテキストを結びつけたり、探究的な学習活動が思いつきやすくなったりします。

 

もちろん、このテキストを読ませたい、というところからスタートしてユニットを組むこともあります。

ただ、その場合でも、そのテキストを通してどういう探究テーマが立てられるか、概念的に考えることを忘れないようにしてください。

 

 

-と、こういった話を最初にしました。

いきなりIBとは…概念とは…といった概論から入るより、

こうした具体的な授業づくりの話から入った方が興味が持てて、理解が早いのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

 

 

 

漢字の学習法を見直す

新学期に入り、生徒に不安なこと、今年度期待することを聞いていたら、

漢字が書けない、苦手だからどうにかしたい、という意見が多く出ました。

 

教科書の新出漢字や、漢字ドリルから範囲を決めて漢字テストを行ってきましたが、生徒の自主努力に任せっぱなしで、たいした指導やアドバイスはできていませんでした。

 

一部の真面目な生徒は事前に準備、練習してくるし、普段から新書などを自分で読んでいる生徒はあまり勉強してこなくてもできます。

 

逆に、テスト直前に慌ててテキストを開き始める生徒は、仮に短期記憶で少しは書けたとしてもすぐに忘れてしまいます。最初から諦めて何も勉強しない生徒も多くいます。

 

こちらとしては、再テストなどで対応するのですが、どうも徒労というか、効果を感じません。

 

教員生活もずいぶん長くなってきましたが、いまだにこんな体たらくです。

そこで、今年度は、思い切ってやり方を変えてみたいと思っていました。

 

そんなタイミングで見つけて、参考にさせてもらったのが、土居正博『クラス全員が熱心に取り組む!  漢字指導法 -学習活動アイデア&指導技術-』(明治図書、2019)です。

小学校での実践ですが、中高でも使える内容がたくさんありました。

 

本書では、「漢字が書けるとはどういうことか」という根本的な問いに立ち戻り、「漢字練習(文字学習)」と「漢字活用練習(語彙学習)」を明確に区別して指導するアプローチが紹介されています。

 

この本では、漢字学習のステップを、

 

1  見慣れる

2   読める

3  大体の形が分かり、書ける

4  とめ・はね・はらいなど正確な形が分かり、書ける

5  様々な使い方が分かる

6  自分が作文で書くときなどに自在に使いこなせる

 

の6段階で整理していました。1〜4が文字学習の段階、5と6が語彙学習の段階、に当たります。

 

私もこの本を読む前に、似たようなことは考えていたのですが、段階を示してそれに即した学習法を提示する、というアプローチまではできていませんでした。

この本を読んで、その有効性が分かった次第です。

 

今回、漢字に苦手意識を持っている高校生に対して、自分の勉強法をもう一度見直してみよう、という話をしました。

 

私の場合は、「漢字を知っているとはどういうことか」という問いを生徒と共有した後、次の五段階で説明しました。

 

0  読めない、見たことがない

1  読める

2  文章中で意味が分かる

3  自分の作文で使える

4  書ける

 

そして、まずは0→1にするために、テキストに出てくる漢字を音読すること、

1→2にするために、テキストの例文や語句の意味を音読すること、辞書を引くこと、

2→3にするために、テキストの例文以外の短文を書いてみること、

といった勉強法を紹介しました。

 

ほとんどの生徒は、漢字テストの直前に慌てて覚えようとするため、まずテキストを読んで言葉として漢字の意味を理解する、というステップをすっ飛ばしています。

まずはこのステップにじっくり時間をかけよう、そうすると3→4の勉強をした時に忘れにくくなるよ、という説明をしました。

ほとんどの生徒が、こういうことを考えたことがない、といった感じで新鮮な反応でした(こちらも、こういったことを伝えることができていなかったことを反省しました)。

 

根本に立ち戻り、勉強の仕方をゆっくり一緒に考えることで、モチベーションアップにもつながったと思います。

あとはこの熱を冷まさないように、教師が継続的に声がけし、勉強をサポートしていく必要があります。