志望理由書の書き方
夏休みに入り、推薦入試に向けて志望理由書を書き始める生徒が出てきました。
国語を担当しているからか、私のところにもよく、書いたものを添削してください、とやってきます。
しかしたいていの場合、言葉の直し以前に、もっと内容から考え直した方が良いものがほとんどで、最初からやり直し、ということになります。
話を聞いてみると、ほとんどメモも作らずに、また構成も考えずにいきなり書いている生徒もけっこういます。
無理もない話です。
志望理由書には何を書けばいいのか、文章の内容はどう考えればいいのか、ということについて学んできていないのです。
以下に、志望理由書の書き方、考え方についてまとめてみます。
こんな話を、よく生徒には説明しています。
志望理由書には何を書くのか
志望理由書とは、大学に対して、なぜその大学を志望するのかを説明する文章です。
大学によって要件は異なりますが、主に以下の内容を書きます。
①自分がどのような人間か
②大学で何を学びたいか ※これが中心になる
③なぜ〇〇大学/△△学部に入りたいのか
①自分はどのような人間か
大学で学ぶ動機に関する内容です。自己アピールもしましょう。
以下のような項目について考えていきます。
・自分はどのようなことに関心を持っているのか
・これまでにどのようなことを学んできたのか/行ってきたのか
・自分は何ができるのか/何が得意か
・将来どのようなことに取り組んでいきたいのか
②大学で何を学びたいか
自分が大学で学びたいことを説明していきます。
志望理由書の中心的な内容なので、十分に考えてから書きましょう。
・大学でどのような専門知識を身に着けたいのか
・どのような研究/活動を行いたいのか
・卒業後にはどのような仕事に就きたいのか
「心理学を学びたい」などのように、広い学問領域だけを書いても説得力は生まれません。心理学の中のどの分野に関心があるのか、どこに問題意識を持っているか、など「具体的」な記述を目指しましょう。
「すでに自分はどのようなことを知っているか(高校までに自分で何を学んできたか)」ということまで書けると、さらに良いです。
③なぜ〇〇大学/△△学部に入りたいのか
・なぜ他の大学ではなくて〇〇大学なのか
・なぜ他の学部ではなくて△△学部なのか
・その大学/学部のどこに魅力を感じているか
などについて説明できるように、事前に内容を考えておきましょう。
書く手順
書く手順は、次の4つのステップに分かれます。
(1)内容メモを作る
(2)構成シートを作る
(3)書く
(4)推敲する
(1)内容メモを作る
ブレインストーミングの要領で、思いついたものをメモしていきます。
(ノートに手書きするか、PCで作るかは好みです)
数が大事です。10個書いて1個残す、くらいのイメージで、どんどん書きましょう。
語句でも、短いフレーズでも良いですが、いきなり長い文章を書かないように気を付けてください。後で構成しにくくなります。
ある程度書けたら、内容ごとにまとまりをつくっていきます。「自己アピール」「大学で研究したいこと」などラベリングしておくと、分かりやすいでしょう。
メモの手が止まってしまったときには、「なぜ?」「例えば?」「他の可能性は?」などと自分に問いかけて、さらに深堀りしてください。
家族や友達に質問をしてもらう、というのも有効です。
(2)構成シートを作る
最初に、各大学で指定されている条件(字数、書く内容など)を確認し、ミスが無いように注意してください。
内容メモをもとに、書く順番を決めていきます。
全体で一つのストーリーになるように、効果的だと思う順番を検討してください。
また、何段落構成になりそうか、各段落それぞれ何字程度書くのかまでおおまかに決めておきます。そうすることでバランスの良い文章に近づきます。
構成ができたら、話題や論理に飛躍がないか、各段落がつながっているのかをチェックします。自分で読んで判断がつかない場合は、この段階で先生にアドバイスを求めましょう。
(3)書く
作成した構成シートに従って書きます。
評価者が1回読むだけで理解できるかどうか、読み手の気持ちに立って一生懸命想像しましょう。評価者になぜ?どういうこと?という疑問を抱かせないことが大事です。
また、段落同士のつながりを意識した書き方を心がけてください。まず~、なぜ~なのかというと、例えば~、などの接続語を活用しましょう。
(4)推敲する
提出前に、誤字脱字、漢字変換ミス、入力ミスがないかどうかを入念に見直しましょう。
不安な語句については、辞書を引くなどして確認してください。
主語や目的語の重複、助詞の使用に誤りがないかどうかもチェックします。
ゆっくりじっくり内容メモを作ることは、高校生にとって、自分の生き方や価値観について考える大切な時間でもあります。
志望理由書を書く、という目的はありますが、この機会を通して「考えるための方法」そのものを身に着けてほしいと思っています。
今週の名文(13)
小論文の指導法
ここ数年、校内で小論文の指導をする機会が増えてきました。
以前は、出されてきたもの添削して…というやり方が中心だったのですが、クラス全員となると大変で、そのわりに力を伸ばしている実感がなかったので、どうしたものかといろいろ試してきました。
今日は、最近よく行っているアプローチを紹介しようと思います。
1、ブレストに時間をかける
学期のなるべく早いうちに、ブレインストーミングのやり方を学びます。
課題の内容に関して、まずはなるべくたくさん思い浮かべてメモを作ろう、というワークです。
作文が苦手な生徒が、この段階でつまづいていることが多いです。
2、3個のメモでいきなり書き始めようとしたり、思いつきません、と手が止まったりします。
そういう場合には、グループでブレストをやってみたり、アイデアを広げるために有効な問いの例(5W1Hや、例えば? 具体的に言うと? 〇〇ってどういう意味?など)をプリントにして配り、それに答える練習を行います。
2、構成シートを作成する
ブレストである程度内容がふくらんだら、構成シートの作成に進みます。
この場合も、私の方でテンプレートを用意することが多いです。
構成シートに当てはめていく形で、ブレストで考えた内容を取捨選択するように促します。
たくさん考えてたくさん捨てる、というのをこの場面では指導します。
3、構成シートを回収し、添削する
この段階でいったん提出させ、添削し、フィードバックを行います。
構成シートだけなので、あまり多くの文章を読まなくていい、というのがポイントです。
また、作文を読んでいるとどうしても誤字脱字や表現の拙さばかりが目についてしまい、そこばかり添削してしまう、ということになりがちですが、
構成シートの添削なので、論理の飛躍や、説得力の弱さ(なぜそう言える?)など、内容面のフィードバックに特化することができます。
そのやり取りを通して、生徒も徐々に、自分の文章がなぜ伝わらないのか、ということに気づいていきます。
授業では、実際に小論文を書く前に、いろいろなテーマで、構成シートを何パターンもすくる課題に取り組みます。
慣れてくれば、生徒同士のペアワークにして、お互いの論理展開をチェックする活動にしてもよいでしょう。
4、小論文を書く
チェックを受けて合格した構成シートをもとに、実際に小論文を書きます。
この段階で内容や構成が十分固まっている生徒は、自分でどんどん書き進めるようになります。
(この段階で、うまく進められない生徒がいる場合は個別にフォローします。内容メモを確認し、追加の質問をしたり、構成ができているかのチェックをします。)
5、推敲
推敲の際のチェックシート(誤字脱字、主語のねじれなど)を事前に配り、チェックシートに基づいて自分で確認するようにさせます。
生徒がチェックすることなので、漏れはあります。
添削する際に、目立つものは小さく印をつけるなどし、返却後に直させます。
(以前は、赤で正しい表記に直したりしていましたが、今から考えると手をかけすぎかなぁと思います。作文が真っ赤になって返却されたら嫌でしょうし。)
この指導法のメリット
およそこのような流れを繰り返します。
はじめのうちは、最初のステップ(ブレストや構成)に時間をたっぷりかけるようにします。だんだんそれが自分でできるようになってきたころには、後半のステップを中心に行う、というバランスです。
構成シートの段階で一度回収し、添削するのは確かに手間ですが、これを行うことで、最後に出される小論文の質が変わります。
論理展開のあいまいな、よく分からない小論文をたくさん読むのに比べれば、負担感はずいぶん軽減されると思います。
これが教員側のメリットです。
生徒の側からみると、ブレストや構成シートづくりを繰り返すことで「考えるとはどういうことか」というのが分かってくるようになります。
この「考え方」をつかんだ生徒は、その後ぐっと伸びます。
このやり方を意識するようになってから、小論文の指導が楽しくなってきました。
生徒の成長、思考力の高まりを実感できるからです。
最終的には、内容や構成について、対等に話し合えるようになるのが理想ですね。
小論文指導というと、どうしても「書き方」を教える、というふうになりがちですが、「生徒の考える力を伸ばす」ための指導法を、もっと考えていきたいです。
【読書】オススメ!書道の練習本
先日は『石川九楊の書道入門』を紹介しました。
今回はそれ以外に、私が普段自宅での練習に愛用している本を紹介します。
幕田魁心『極める!楷書 創作へのみちしるべ』(木耳社)
まずは、私の師匠・幕田魁心の本を挙げないわけにはいきません。
この本では、「孔子廟堂碑」「九成宮醴泉銘」「雁塔聖教序」といった楷書の古典を取り上げ、作品ごとにその書法、用筆の特徴を解説していきます。
それぞれに手本がついているので、解説を読みながら臨書することで、古典の書風を身に着けることができます。
これは私の通っている書道教室の基本テキストなのですが、独学でも十分取り組めるだろうと思います。
筒井茂徳『楷書がうまくなる本』(二玄社)
この本はすごいです。
先程も挙げた「孔子廟堂碑」「九成宮醴泉銘」などの古典をもとにしているのは同じなのですが、それらを正確に臨書するために、筆の使い方をミリ単位で分析し、解説していきます。
例えば、漢字の縦画ひとつにしても、
鉄柱勢(収筆部で強く押し返す)
垂露勢(静かに止める)
懸針勢(下方に引き抜く)
この3種類をまず挙げ(ここまでであれば詳しい練習本には載っているのですが)それ以外にも
ほぼ寸胴に作る縦画
下方を細めに作る縦画
下方を太くする縦画
中ほどを引き締める長い縦画
下方を太くしてゆく長い縦画
という具合に区分し、それぞれに実例を挙げていきます。
正確に臨書するためには、これくらい注意せよ、ということです。
タイトルからハウツー本のようなものを想定して読むと、面食らうと思います。
それくらい本格派です。
この本を読むと、漢字を美しく見せる原理というものが理屈でわかってきます。
その意味で、書道をされない方でも、漢字に興味があるのであれば読み物として楽しめると思います。
この本で理屈を学び、見るべきポイントをつかんだあとで、二玄社の中国法書選シリーズなどで練習すると効果的です。
山下静雨『見違えるほどきれいな字が書ける本』(KKベストセラーズ)
もっと気軽に、短い時間で上手くなりたい、という方にはこの新書がオススメです。
目次の初めのほうにある「きれいに見える字が超カンタンに書ける12のオキテ」の部分だけでも意識して書くようすれば、ずいぶん変わると思います。
「縦書きはピシッと行の中心を通す」「右肩が上がりすぎた字は見る人を疲れさせる」「力を入れても強い字にはならない」などの具体的なアドバイスが並びます。
過去記事でも紹介しています。
根本知『美文字の法則 さっと書く一枚の手紙』(さくら舎)
最近では、手書きで手紙を書くなんていう機会はめったになくなりました。
たまにそういう機会があると、どう書いていいか慌てますよね。
書きづらい理由の一つに、前書き、とくに時候のあいさつがあります。
どう書いていいかわからず、結局文例集やインターネットの丸写しになったりします。
この本では、手紙をもっと気軽に書いてほしいという思いから、時候のあいさつは季節を表す熟語を書くようにしてはどうか、という提案がされています。
夏であれば「拝啓 夏日清風来(かじつせいふうらい)」という書き出して済ませよう、という提案です。
このアイデアは新鮮でした。
たしかに、前書きをどうするかという問題が一気に解決するばかりでなく、「こなれた」感じもします。
この本には、他にもいろんな実例が載っているので、一冊持っておくと、何かあったときにちょっと手書きで書いてみようかな、という気分になれて、オススメです。
【読書】『石川九楊の書道入門』書写の授業に活かしたい
書道を習い始めて、もう9年になるのですが、上達への道はまだまだ遠いです。
この夏、どうせどこにも出かけないので、少し時間をかけて学び直してみようかと思いました。
その参加にと買ったのが、『石川九楊の書道入門 石川メソッドで30日基本完全マスター』(芸術新聞社、2007年)です。
石川氏は「筆触」という概念を用いて、書を分析し論じることで知られています。
本書でもそのアプローチが活かされ、他の入門書にはないさまざまな工夫がありました。
だいたい、書の書き方を本で説明するのは至難の技です。
穂先の動かし方、筆の沈み具合、スピード、微妙なさじ加減が要求されます。
そして、多くのメソッド本は、お手本と、書き方のコツを言葉で説明するものがほとんどです。
石川氏は、横画や縦画などの漢字の点画、部首が、英語でいうとアルファベットに当たるとし、アルファベットを知らないと英単語が書けないように、点画の書法を学ばなければ漢字が書けないと述べます。
そして、ここからがすごいのですが(そして文章だと分かりづらいのでぜひ本書にあたってほしいのですが)、点画を書き方を5つの視点から分析し、言語化、視覚化しています。
「骨格イメージ」筆の動かし方の基本ライン
「肉付イメージ」穂先や胴の動かし方
「筆圧イメージ」筆圧の深い、浅いをグラフ化
「速度イメージ」速度の緩急をグラフ化
「思想」どういう心持ちで筆を操作するのかを言語化
横画一本にここまで詳しく説明した本は、今まで読んだことがありません。
(30日のうちの、1日目は横画だけで終わります)
小中学校では書写の授業がありますが、なかなかここまで点画の書き方を詳しく教えることは少ないだろうと思います。
その結果、どうやって書けばお手本に近づけるのかが分からなくなり、書道が嫌いになっていく、ということもありそうです。
『14歳からの読解力教室』でも述べられていましたが、教師はこれくらい言えば分かるだろうと思いやすく、実は子どもにはほとんど伝わっていない、ということがよくあります。
書写に関しても、もっと理屈から説明していくと伝わることもあるのではないかと思いました。
(そして動画を使えば、もっと伝わりやすくなりそうですね。)
ただ、本書は「入門」といいつつ、少々ハードルが高いです。
例えば、筆者は墨汁を使うことを否定します。
「液体墨や墨汁は、基本的には使ってはいけません。墨をするのが面倒だとか、時間がないときう人は、書をやめたほうがよいでしょう。」
と、のっけから全否定です。
「(墨を)する時間の目安としては三十分以上です。少し長いと思われるかもしれませんが、驚かないでください。書にはゆったりとした時間が必要なのです。墨をするのがめんどうくさいと思っている間は、書はまだまだだめだと考えてまちがいありません。」
普段墨汁ばかり使っている私には、耳の痛い言葉が続きます。
なかなかそんなに時間とれないし…と言い訳をしつつ、この本を参考にして、自分の癖や苦手なところを見直していきたいです。
4ヶ月健診
今日は、4ヶ月の健診に行ってきました。
とくに問題はなく、15分くらいで終了。
順調に育っています。
体重は、もう生まれた時の倍くらいにまでなりました。
最近では抱っこしているとすぐに腕が痛くなるので、夫婦で交代しながら抱っこしています。
家ではわりと大人しく、泣いてもそんなに大きな声にならないのですが、
今日は知らない人(お医者さんや看護師さん)に囲まれてびっくりしたのか、健診のあいだずっと大声で泣きっぱなしでした。
検診なので裸ん坊だったのですが、泣き叫び出したら、全身が一気に真っ赤になったので、
なるほど、赤子とはよく言ったものだなぁ、
と変なところで感心してしまいました。
首がすわっているのも確認してもらったので、次はそのうち這い回るようになるのかな。
今週の名文(12)
ブログのアクセス数、こつこつやってきて、先日10000超えました!
いつも読んでくださりありがとうございます。
さて、今週も、たくさんのいい言葉に出会いました。
社会が平穏でなくなったら、諦められても仕方がない命がこの社会にあるという共通認識を無意識に社会の中で作りつつあるのではないか。それは障害者がこれまで直面してきた状況と同じです。
荒井裕樹(7月22日朝日新聞)
〇やまゆり園の事件から4年に合わせた寄稿。嘱託殺人事件とその後の議論を見ていると、分断はさらに進んでいるかのように思えます。
校舎が人をつくる
〇先日の内田樹のオンライン講演会で紹介されていた言葉です。自分自身、管理型の教育環境に慣れすぎていてそれを疑うのが難しい。海外の教室の様子などを見ると、びっくりしますね。
教育は無限だが、教員は有限
内田良
これも別の、教師の働き方改革に関するオンライン講演会より。
コロナでイベントは軒並みオンラインになりましたが、ずっと家にいるのでむしろ参加できるものが増えた印象です。
時代が変わったからって、どうして俺らまで変わんなきゃなんねぇ? 勝手に変わっちまったのは、時代の方だべ
最近は、Amazonプライムで昔観た映画などをいろいろ見返しています。「フラガール」はいろんな考察ポイントがあって良い映画。すぐに授業で使いたくなるのが教員の性ですね。