Senobi

私立の中高一貫校で国語を教えています。国際バカロレア、子どものための哲学、ワークショップ型の授業づくりに関心があります。

『理解をもたらすカリキュラム設計』とIBの単元づくりを比較する(1)

オンライン読書会

夏休み、IB関係の先生たちとオンラインで読書会を行いました。

課題となった本はこちら。

理解をもたらすカリキュラム設計―「逆向き設計」の理論と方法

理解をもたらすカリキュラム設計―「逆向き設計」の理論と方法

  • 作者: グラントウィギンズ,ジェイマクタイ,Grant Wiggins,Jay McTighe,西岡加名恵
  • 出版社/メーカー: 日本標準
  • 発売日: 2012/05/01
  • メディア: 単行本
  • 購入: 1人 クリック: 17回
  • この商品を含むブログを見る
 

 IBカリキュラムのもとになった本でもあり、読まなきゃと思ってはいたのですが、なかなか手が出せずにいました…。

グループでの読書会ということで、それなら読めるかも、この機会を逃すまい!と参加しました。(企画してくださった先生、ありがとうございます!)

 

読み進めていくうちに、本書で述べられている「逆向き設計」と、IBのワークショップなどで学ぶ単元づくりのやり方では、いろいろな違いがあることも分かってきました。

そこで、読書会で話し合ったこともふまえながら、『理解をもたらすカリキュラム設計』で書かれている内容と、IBでの単元づくりを比較してみたいと思います。

 

そもそも「逆向き設計」とは?

IBのワークショップなどに参加すると、IBでは「逆向き設計」でカリキュラムや授業を計画する、という内容が説明されます。

では、「逆向き設計」とはどういうことなのでしょうか?

 

『理解をもたらす―』では、次のように説明されています。

「逆向き設計(backward design)」カリキュラムや単元を設計するためのアプローチであり、究極目的を念頭において取り掛かり、その究極目的に向けて設計するもの。(p.393)

「究極目的」というのがずいぶん強いワードですが、1年間の目標を立てたり、単元ごとの目標や毎時間のゴールを設定し、授業を組み立てるのは当たり前の気がします。

 

説明は次のように続きます。

そのようなアプローチは理にかなっているように思われるが、逆向きだと見なさされる。なぜなら多くの教師は、究極目的―めざしている結果(内容スタンダードを満たす、理解を得るなど)―から単元設計を引き出すよりもむしろ、教科書やお気に入りの授業や昔ながらの活動といった手段をもって単元設計を始めるからである。(p.393)

なるほど、「逆向き」というのは、当たり前のことが当たり前に出来ていない現状に対する批判的な意味合いが込められていたんですね。

 

「教科書ベース」の単元づくり

学習指導要領には国語科の目標が書かれています。

 言葉による見方・考え方を働かせ、言語活動を通して、国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力を次の通り育成することを目指す。

(1)社会生活に必要な国語について、その特質を理解し適切に使うことができるようにする。

(2)社会生活における人との関わりの中で伝え合う力を高め、思考力や想像力を養う。

(3)言葉がもつ価値を認識するとともに、言語感覚を豊かにし、我が国の言語文化に関わり、国語を尊重してその能力の向上を図る態度を養う。

(『中学校 学習指導要領(平成29年告示)』「第1節 国語 第1 目標」)

それ以外にも、各学校には教育理念や指導方針が掲げられています。

しかし、単元づくりや毎日の授業のなかで、それらをどれだけ意識しているでしょうか。

 

自分がこれまでどうやって年間指導計画を作ってきたか、そしてどういう風に単元を計画してきたかを思い返してみると、ほとんどが「教科書ベース」だったことを思い知らされます。

だいたい私はこのようなやり方をしていました。

 

(0)定期テストの時期や方法は決まっている。すでに教科書がある。

 ※定期テストの方法が「決まっている」というのも思い込みですが、またいずれ検討します

(1)受け持ちの学年が決まったら、最初に当該の教科書を読み、どのタイミングでどの教材を扱おうか考える。

(2)どういう知識をどういう時期に教えるか、を検討する。

(3)余裕があれば、教科書教材を使わない単元を計画する。

(4)それらをバランスよく並べて年間のシラバスを作成する。

(年度初めは時間がないので、4月にできるのはこのあたりが限界…。)

 

およそこんな感じでしょうか。

定期考査の時期が近づいてくると、扱った教材の内容や知識をどういう風に出題しようか、検討していきます。

教科書教材をどう使うか、どうバランスよくテストをするか、ということが発想の中心で、学習指導要領の目標や、学校の教育理念がなおざりになってしまっていることに気づきます。

いつのまにかそれが「普通」なことになっていました。

だから、最初に目標を明確にする、という当たり前のアプローチも「逆向き」に感じてしまうのですね。

 

どういう順番で設計するか

『理解をもたらす―』の説明は次のように続きます。

私たちは、その習慣の逆を推奨する。究極目的(求められている結果)から始めて、それからその結果が達成されたことを判定するのに必要な証拠(評価方法)を明確にする。結果と評価方法が明瞭に特定されると、設計者は必要な(可能性を広げる)知識とスキルを決定し、そうしてようやく生徒たちにパフォーマンスの用意をさせるのに必要な指導を決める。(p.393)

教科書ありき、いつものやり方ありきではなく、

最初にゴールを設定し、次に評価方法を決め、その後で必要な知識やスキルを考える。

そして最後にようやく教材を決める。

この順番で設計するのが「逆向き設計」です。

 

「教科書ベース」のやり方に慣れきっていた私は、IBの単元づくりの方法に取り組んだとき、最初にゴールを設定し、その後で評価方法や学習活動を考える、という「逆向き」の考え方がなかなかできませんでした。

「教科書ベース」で単元を計画する方法と、「逆向き設計」で単元を計画する方法では、発想の順番がまるで違うのです。

 

……『理解をもたらす―』とIBとの比較をするつもりでしたが、「教科書ベース」の授業づくりと「逆向き設計」の比較でここまできてしまいました。

また次回に続きます!