Senobi

私立の中高一貫校で国語を教えています。国際バカロレア、子どものための哲学、ワークショップ型の授業づくりに関心があります。

【単元案】誰が語るかによって物語の意味は大きく変わる ~桃太郎を素材として

桃太郎を素材にして、語り手について学んだり、

語り手が変わる(視点が変わる)ことで、物語のもつ意味や、受け取り方が大きく変わることを探究する単元を考えました。

中学1年、2年生を想定しています。

ところどころIBの用語が出てきますが、読み流してください。

 

【探究テーマ】誰が語るか、どの視点から語られるかによって、物語の持つ意味や、読み手の受け取り方は大きく変わる。

【重要概念】ものの見方

【関連概念】視点、受け手側の受容

【グローバルな文脈】個人的表現と文化的表現

【事実的問い】テクストの語り手は誰か。どのような表現の工夫が用いられているか。

【概念的問い】語り手が変わることで、物語の意味はどのように変化するか。

【議論的問い】物語のテーマ、主題を決める要因は何か。

【スキル】クリティカル・シンキングスキル

 

第1次 語り手について学ぶ

「桃太郎」の歌詞を読んで、語り手について学ぶ

桃太郎さん桃太郎さん
お腰につけた黍団子
一つわたしに下さいな

やりましょうやりましょう
これから鬼の征伐に
ついて行くならやりましょう

行きましょう行きましょう
あなたについて何処までも
家来になって行きましょう

そりゃ進めそりゃ進め
一度に攻めて攻めやぶり
つぶしてしまえ 鬼が島

おもしろいおもしろい
のこらず鬼を攻めふせて
分捕物をえんやらや

万々万々
お伴の犬や猿雉子は
勇んで車をえんやらや (「桃太郎」詞不詳)

 私は2番までしか知らなかったのですが、こんな歌詞なんですね。

歌の中で語り手がどんどん変わるのが面白いです。

1番は犬猿雉子、2番は桃太郎、3番はまた犬猿雉子。

4番以降は誰なんでしょう? 

三者でしょうが、桃太郎軍団とも読めますね(そう読むと「おもしろい」というのが怖いですが…)。

こういう例を紹介しながら、作者と語り手が異なることや、語り手によって読み手の視点が決まることを学んでいきます。

 

第2次 広告分析

この広告を生徒に紹介すると面白がってくれるのですが、

「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。」というコピーが目をひく、「めでたし、めでたし?」という広告です。

鬼の子どもの視点からみた「桃太郎」を表現しています。

www.advertimes.com

「この広告はどのようなメッセージを読み手に伝えているか。またそれはどこからそう読み取れるか」という問いについて考えます。

その際、言葉の選び方、フォント、色、配置など、分析するためのポイントを生徒に紹介し、複数の観点から自分で分析できるようにもっていきます。

グループで話し合って発表したり、短い分析レポートを書いたりして評価します。〔基準A:分析〕

 

第3次 物語の創作

「桃太郎」に出てくる別の登場人物を主人公にして、物語を創作します。〔基準C:創作〕

その際発展読書として、芥川の「桃太郎」や、中島敦の「悟浄歎異」(難しいかな…、万城目学「悟浄出立」の方が読みやすいか)などを紹介すると、子どもたちの意欲も高まると思います。

それらの作品を参考にしつつ、誰を主人公にするかを決めて、物語を書いていきます。

 

第4次 ふりかえり

完成した物語を友達と読み合ったり、良かった作品をクラスで共有したりします。

その際、自分はどういう意図で、主人公を設定し、物語を書いたのかを言語化するように促します。

最後に、語り手が変わることによって物語の意味や、受け取り方が大きく変わる、という探究テーマについて、この単元での経験を具体例に挙げつつ、まとめます。

 

その他に、戦中「桃太郎」が敵を打ち破るシンボルとして、どのように利用され、どのようなメディア戦略が行われたか、また国民はどのようにそれらを受け取ったか、などについて考える機会を作ると、これは高校生の授業として十分意味のあるもになると思います。