Senobi

私立の中高一貫校で国語を教えています。国際バカロレア、子どものための哲学、ワークショップ型の授業づくりに関心があります。

【単元案】手塚マンガはどのように現代を描いているか

昨年度、高校1年生(MYP)を対象に、手塚マンガを使った単元を行いました。

メッセージ性の強い作品の読解を通して、テクストには現実の諸問題がどのように反映されているか、作者の意図や工夫を考察することをねらっています。

マンガを使った授業は生徒たちにとっては新鮮だったようで、年度末の振り返りでも、楽しかった、視野が広がった、というコメントを多数もらいました。

 

【探究テーマ】

手塚治虫はマンガを通して世の中にある諸問題を顕在化させている。読者はマンガを読むことで時間や空間を超えた問題について考えることになる。

【重要概念】つながり

【関連概念】ジャンル、テーマ

【グローバルな文脈】空間的・時間的位置づけ

【事実的問い】

手塚治虫のマンガにはどのようなテーマが描かれているか
ニュースではどのような社会問題が取り上げられているか
手塚治虫はマンガの描き方にどのような工夫をしているか

【概念的問い】

マンガで描かれる内容と現実社会はどのように関連しているか

【議論的問い】

手塚治虫が作品を通して描こうとしたテーマは何か
マンガを通して社会問題について考えることは有効か

【スキル】

メディアリテラシースキル、転移スキル

 

第1次 マンガを読む

教材は、図書館にあった手塚治虫全集の中から『ブラックジャック』『火の鳥』『アドルフに告ぐ』『MW』『奇子』などをピックアップして、カートに積んで教室まで毎時間持っていきました。

生徒はその中から好きな作品を選び、最初は読むだけの時間を、何時間かとりました。

 

ブラックジャック』が家に全巻あるという生徒もいる一方で、手塚治虫という名前は聞いたことがあるけれど、作品は読んだことがない、という生徒も多くいて、読むこと自体が新鮮なようでした。

そもそもマンガの読み方を知らない生徒がいて、どこから読めばいいんですか、と言う質問を受けたときには、時代が変わったんだなと思いました。

読むスピートにもものすごく差があり、マンガのリテラシーも授業で扱った方がいいのではないか、という気さえします。

 

いくつか読んで、自分が分析してみたい作品を決めたら、

あらすじをまとめ、作品のテーマ、作者が読者に伝えたいことは何か、などについて考えます。

さらに、読み手にテーマを伝えるために作者がどのような工夫をしているのか、例えばセリフやカット、コマ割りの工夫などについて注目するように促します。

それらをまとめたドキュメントを作成しました。

 

第2次 ニュースを調べる

選んだ作品に関連するニュースにはどのようなものがあるか、インターネットを使って調べます。

例えば『ブラックジャック』では、安楽死人工知能といった、現代でまさに議論されているテーマが扱われています。

それ以外にも、人間関係、貧困、倫理、環境…さまざまな問題が内包されています。

生徒たちは、ニュースを調べ、トピックについて知ることで、作品に描かれた問題が、今まさに自分たちの周りで起こっている、ということに気づきます。

(生徒たちは、奥付を見て、作品が4、50年近く前に描かれていたことに驚いていました)

 

第3次 マンガ論評を書く

これまでに考えたこと、調べたことをもとにして、2000字程度のマンガ論評を書く課題に取り組みます。

これが評価のための課題です。

分析、構成、言語の使用について、ルーブリックを用いて評価します。

途中、グループで読みあうなどして、より客観的な記述になるように促しました。

 

【ふりかえり】

教師が作品を指定するのではなく、生徒自身が選ぶようにすると、意欲が高まります。(今回はマンガだったので、なおさら積極的に取り組めていました。)

ただ、『火の鳥』や『アドルフに告ぐ』などについてまとめるのは、高校1年生には難しすぎました。こちらで限定しすぎても面白くないし、テクストの選択範囲をどうするかはいつも迷います。

 

小説の場合は分析のための観点について学びますが、同じように、マンガの「文法」についても十分にレクチャーした方がよかったと思いました。映画の分析にも通じると思うのですが、アングルやカットなどについての理解が不十分のため、分析のポイントに気づけない、という生徒が多くいました(個別対応することになりました)。

そして、それが論評にもっと組み込めるようになると、「言語と文学」の成果物としてより意味のあるものになりそうです。

 

テクストと現実社会のニュースや問題をつなげて考えるプロセスは、生徒の視野を広げたり、作品の意味を考える上で大変有効だと思います。

さらに、作者の先見性や、作品の色あせないテーマ性に気づくことで、作者や作品へのリスペクトが生まれてくるのも、よい効果だと思いました。