「概念」を使った読書感想文の指導法
先日は、国際バカロレア(IB)の課題で分析批評を行っている、という話でした。
具体的に、どう段階的な指導をしていくのか紹介していきます。
IB校でなくても、いろいろと活用できるところがあると思います。
私の学校は中高一貫校です。
IBのプログラムとしては、中学1年生~高校1年生までの4年間がMYP(中等教育プログラム)、高校2、3年生がDP(ディプロマプログラム)と呼ばれます。
まずは本文の読解を行う
とくに中学生の初めのうちは、正確な本文読解ができていません。
また、語彙を理解していないこともあります。
基本的には、教科書に掲載されている作品を使いながら(一条校なので教科書も使っています)、正確に本文の内容がつかめているかどうか確認します。
この辺りは、多くの学校と何ら変わりません。
概念キーワードを渡す
中学生にいきなり分析批評をやろう、といってもぴんときません。
そのため、まずは「概念キーワード」を渡すようにしています。
といっても難しいものではなく、「登場人物」「テーマ」「設定」「文体」など、分析をする上での「観点」のようなものです。
これらを生徒に示しながら、作品のストーリーだけでなく、細部に注目するよう促します。
生徒は各自で取り組みたい「観点」を決め、それを念頭において作品を読みなおし、問いを立てたり、特徴を指摘していきます。
こうすることで、授業中に同じ作品を扱っていても、まったく異なる作文が提出されるようになります。
「オツベルと象」のテーマは何か、「オツベルと象」にはどのような人物が登場するか、「オツベルと象」から読み取れる宮沢賢治の文体の特徴について、という具合です。
同じような課題を作品を変えて繰り返す
分析批評は、いきなりできるわけではありません。
そのため、同じような取り組みを何度も行います。もちろん、扱う作品を変えながら。
学年ごとの教科書教材を使うこともありますし、中学1年生の時には宮沢賢治や芥川龍之介、中学2年生では太宰治、など取り上げる作家を変えていくこともあります。
また、目安となる作文の字数も徐々に増やしていきます。
始めは原稿用紙1、2枚から。
少しずつ増やしていって、高校1年生のころには5枚程度、構成のある論理的な文章を書けるようになろう、というのが今の私の学校の目標です。
課題を少しずつ複雑にしていく
最初のうちは、なるべく問いや作品を限定し、多くの生徒が取り組みやすくなるよう配慮します。
例えば、
「なぜ「ぼく」はちょうをつぶしたのか」
「「ぼく」と「エーミール」の関係はどう変化したのか」(テクスト『少年の日の思い出』)
などです。
次に、問いの抽象度を上げて書かせるようにします。
「登場人物の関係性はどのように変化したか、自分が選んだ作品をもとに論じなさい」
というような課題の出し方です。
学年が上がると、抽象的な問いについて、複数の作品をもとにして書く課題に取り組みます。
「登場人物に読者が共感できるようにするため、作者はどのような工夫をしているか、2つの作品を例に挙げて論じなさい」
といった具合です。
このように、少しずつ問いの抽象度を上げたり、批評する作品の幅を増やすことで、生徒の思考やライティングスキルを鍛えようとしています。
また、その都度書き方を教え、フィードバックを繰り返すことで、生徒もだんだんと書けるようになってきます。
ちなみに、DP(高校2年生以降)のカリキュラム、作品も文庫本一冊読むようになります。
先に挙げた課題も、複数の作品を丸ごと比較しながら(例えば『こころ』と『砂の女』など)論じていくことになります。
読書感想文にも応用可能
ということで、このような方法は読書感想文にも十分応用可能です。
読書感想文の課題に取り組む前に、分析の観点を学習し(登場人物、テーマ、作者の言葉の使い方、など)、どの観点で書くのかを決めておくだけでも焦点の絞られた文章になるでしょう。
何を書けばいいかわからない、という不満はずいぶん減るはずです。
抽象度の高い問いをいくつか用意していおいて、自分が選んだ作品について、その問いの中から一つ選んで解答する、というやり方も生徒の知的好奇心を刺激します。
抽象的な問いとは例えば、
「この作品のテーマは何か、またそれはどこから読み取れるか」
「作者はどのような表現の工夫をしているか」
「小説の構成はどのような効果を上げているか」
というような問いです。
それらを、自分が読んだ本をもとに考察するのです。
読書が苦ではない生徒に向けては、複数の作品を比較して論じる、という方法を教えると興味を持って取り組んでくれるかもしれません。
二つを比較して考えることで、それぞれの作品についてより深く理解することにもつながります。
ずっと同じような読書感想文では生徒は飽きてしまいます。
こんな方法もあるよ、こんな書き方もできるよ、といろいろな手を紹介しながら、
少しでも本を読んで考えることの面白さを体感してほしいなと思います。