Senobi

私立の中高一貫校で国語を教えています。国際バカロレア、子どものための哲学、ワークショップ型の授業づくりに関心があります。

【読書】『イエナプラン 共に生きることを学ぶ学校』実践者向けガイドブック

先日、クラウドファンディングで支援していた本が届いたので、さっそく読んでみました。

 

前に、リヒテルズ直子『今こそ日本の学校に!イエナプラン実践ガイドブック』(教育開発研究所)を読んで、イエナプランの大枠については知っていました。

 

今回のこちらの本はオランダで刊行された教本の訳書ということで、実際に学校でどう実践するのかを書いた、より具体的なガイドブックになっています。

 

本書は3章構成になっており、

第1章はイエナプランの歴史や理念、概要の紹介。

第2章は「イエナプランをやってみよう!」と題されていて、イエナプランの「コア」にあたる内容をどう実践していくかの具体的な手引きです。

この章には、実際の教師の子どもへの声がけ例や、上手く実践するためのチェックボックスなどが充実していて、参考になりました。

次の第3章は「イエナプランとともに歩む」は示し方がユニーク。

グループ作りの形式、共に遊ぶ、学校環境、自分で作る週計画、評価、保護者など、学校にまつわる様々な観点を挙げて「どうしたらイエナプランらしくなるか」という共通の問いについて「グッド・ベター・ベスト」の3段階で解説する、という構成になっていました。

 

私も、ここ数年国際バカロレアの授業づくり、学校づくりに関わってきたのでよく分かるのですが、いきなりスイッチを切り替えるようにぱっと変わったりはできないんですよね。

これまでの授業スタイル、学校のシステムがあって、それを何とかちょっとずつ変えて次の目指す方向に舵を切っていく。

「グッド・ベター・ベスト」のように、教員の側にもスモールステップが示されている設計はとても良いと思いました。今度真似してみよう。

 

難しいのは、イエナプランとはこのようにするものだ、という内容が固定化されていない、というところです。

本書の最初の方で、オランダにイエナプランを根付かせたフロイデンタールの考えが紹介されています。

イエナプランは、教員がしなければならないことを定めた指導要領でも、こうすべきであると手順を固めた教授方法でもなく、ビジョンであり、根本的な姿勢であり、生きていく上での確信なのです。(p.13)

 

サークル対話、ブロックアワー、ワールドオリエンテーションなど「イエナプランらしい」活動はいろいろありますが、これができたらイエナプラン校だ、という確たるものはない。

 

中川綾『あたらしいしょうがっこうのつくりかた』(ナガオ考務店)では、日本初のイエナプランスクール開校に向けて、「イエナプランを名乗るとはどういうことか」試行錯誤しながら形にしていくプロセスが紹介されていました。

あたらしいしょうがっこうのつくりかた

あたらしいしょうがっこうのつくりかた

  • 作者:中川 綾
  • 発売日: 2019/11/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

ここでもキーワードは対話です。

イエナプランは「メソッドではなくコンセプト」と言われます。だからこそ、学校に関わる人全員が話し合いながら、自分たちで具体化していかなければならない。

コンセプトがオープンであることは、私たちにたくさんの自由があるということですが、同時に、それは、私たちに選択を迫ります。あなたは今後、自分の学校をさらに、どのように発展させていきたいのでしょうか。どういうものがあなたやあなたの学校の教職員チームや子どもたち、そして保護者にふさわしいのでしょうか。こうした選択はみんなで一緒にやらなくてはなりません。(略)自ら関与(エンゲージメント)することがなければ、責任も生まれません。責任をもつことがなければ、関与もあり得ないのです。(p.19)

 

大変そうだけど、刺激的で面白いんだろうなあ。

 

ちなみに、国際バカロレアのガイドブックも、規則ではなくて「枠組み」なんだとよく言われます。

その割にはカリキュラム設計や単元づくりの際にやらなきゃいけない「決まり事」が多いのですが…。

世界中で同じクオリティを維持しようとしたら、ある程度厳格化しなければいけないのかもしれません。

IBが出来たばかりの頃は、ずいぶん緩いものだったけれど、参加国が増え、学校数が増えるにつれて厳しくなっていった、というのはベテランのIB教師から聞いた話です。

イエナプランの場合は、本書を読む限り、IBに比べてずいぶん自由度が高そうですが、それでもこのような「教本」が出てくるあたり、共通するジレンマなのかもしれませんね。どこまでルールでしばり、どこまで学校や教師の自由裁量に任せるか。