Senobi

私立の中高一貫校で国語を教えています。国際バカロレア、子どものための哲学、ワークショップ型の授業づくりに関心があります。

【読書】『思考する教室をつくる 概念型カリキュラムの理論と実践』待望の邦訳が出た!

今日取り上げるのは、こちらの本です。

 

国際バカロレアをやるうえで、プログラムの理論的土台となっているこの本は、IB教員であれば必読です。

原著の方は、昨年夏に研究会仲間で読書会を行ったのですが、自分の英語力ではなかなか理解したと言えない部分が多々ありました。

 

やっと日本語版が出た!というわけで、さっそく読んでみました。

「概念型カリキュラム」というのが聞きなれないと思いますが、帯で鈴木寛氏が書いているように、新学習指導要領にこの考え方が取り入れられてきています。

今後もその傾向は続くでしょうから、IB校以外の先生方にとっても参考になる部分は多いと思います。

 

基本的な考え方

この本は、一言でいえば、教員に従来型のカリキュラムと指導から「概念型のカリキュラムと指導」へマインドシフトを迫るものです。

 

 

従来は、知識やスキルを身に付けることが中心でした(内容網羅型)。しかしそれでは浅い認知プロセスしか経験できないと本書はいいます。

生徒がより高次の思考をするにはどうするか。そこで登場するのが「概念」です。

事実レベルと概念レベルの思考を行ったり来たりすることで、生徒の知力は伸びる、というのが本書の基本スタンス。

 

それを具体的に引き起こすための単元づくりの方法を、詳細に説明しています。

 

概念って何?

本書で説明されているように「トピック」と「概念」を区別して捉えてみると、なんとなくイメージできるかと思います。(

 

本書で挙げられている「トピック」の特徴は以下のようなものです。

トピックは特定の人々、場所、状況、または物に関する一連の事実の枠組みとなるものである。トピックは、学習単元に文脈を提供する。

 トピックは、転移しない。トピックは、特定の実例と関連している。

〈例〉

・アマゾン熱帯雨林の生態系

・現在の難民危機に対するヨーロッパの対応

・数学の式と方程式

ピカソ:芸術と影響 (p.41)

 

対して「概念」は以下のように説明されています。

概念とは、トピックから引き出された「思考の構築物(mental construct)」で、a)時を超越している、b)1~2語の単語か短いフレーズで表される、c)普遍的かつ抽象的(程度は異なるが)である、という性質をもつ。概念の具体例はさまざまにあるが、共通の性質をもっている。概念は転移する。そして、一般化が可能であるという性質がゆえに、トピックより高いレベルの抽象性を呈する。また概念は、一般性、抽象性、複雑性のさまざまなレベルにおいて創発する。概念は、マクロでもミクロでもあり得る。

〈例〉

・システム

・秩序

・生息地

・価値

・一次関数 (p.42)

 

「一次関数」とかはトピックなんじゃないかとも思いますが、「ミクロの概念」にあたるようです。

 

そして、複数の「概念」を用いて、生徒が単元を通して理解すべきことを明文化していくというのが教師の大事な役割です。本書では「一般化(generalizations)」と呼ばれています。

一般化とは、思考を要約した文のことで、「この学習によって、何が理解できるか」「どのような学びが新しい状況に転移するのか」などといった学習の関連性についての問いに答えるものである。(p.50)

 

概念型単元を設計するステップ

この本で紹介されている単元づくりの手順が面白いんです。自分がこれまで行ってきた単元づくりの方法とはまるで違う。

本書の第3章をもとにまとめてみます。簡単な説明は私の解釈です。

 

①単元名を決める

・中心となるトピックや文脈を決めます。学習を焦点化するためです。

 

②概念レンズを決める

高次の思考へと生徒を促すために、どの概念を持ちいるのかを決めます。

 

③単元の領域を決める

教科内のどの領域で行う単元なのかを決めます。(国語だと、現代文とか古典とか?)

 

④トピックと概念を単元の領域の下に書く

まずは教師が「概念的に」ブレインストーミングを行います。中心となるトピックや概念は決めていますが、それ以外にどんな概念やトピックが扱えるのかを検討します。このプロセスで単元設計に広がりが生まれます。

 

⑤その学習の単元から生徒に導き出してほしい一般化を文にする(生徒が概念的に理解しなければならないこと)

指導案でいう目標にあたる部分。ここをどう書くかによって、良い概念型の単元計画になるのかどうかが決まります。知識ベース、スキルベースの目標ではなく、②で選択した概念について、生徒がどのような理解をするのかを「明文化」します。

 

⑥思考を促す問いをつくる

生徒が概念理解に到達するために、様々な問いを用意しておきます。問いの内容によって、事実的に関する問い、概念的な問い、議論を喚起する問い、に分けることができます。

 

⑦必須内容を決める(生徒が必ず知るべきこと)

単元の中で生徒が知る知識(事実)を特定します。

 

⑧主要スキルを決める(生徒が必ずできるようになるべきこと)

単元の活動を通して、生徒が身に付けるスキルを特定します。

 

⑨単元末評価課題および採点ガイドを作成する

評価のための課題を考えます。大事なのは「知識を確認するための課題にしない」ということです。あくまで⑤で設定した目標が、生徒の中でどのように達成されたのかを確認できるような課題の中身を考えなければなりません。

 

⑩期待される学習経験を設計する

生徒が単元の中でどのように学習をすすめ、評価課題に取り組んでいくのか、そのモデルを考えます。

 

⑪単元の概要を書く

これまでに考えたことをふまえて、生徒に説明するための単元の概要を考えます。

 

いかがですか? 教科書・教材ベースの単元づくりとはまるで発想が異なることは伝わると思います。

私の場合は、IBの推奨する単元づくりのステップをこの数年学んできました。IBの単元づくりの方法は細部では異なる部分があるのですが、大枠は同じです。

 

従来型の単元づくりと違い、生徒を「認知レベルで」ここまで伸ばす、ということを明文化しなければならないのが大変なところです。

これを覚えればいい、これができるようになればいい、という目標設定とはレベルが異なります。(そしてそれが達成できているのかどうかを判断するための課題も考えなければならない)

実際自分でやり始めてはみたものの、それこそマインドシフトが大変でした。

 

ただ、数年間やっているうちに、徐々に慣れてはきました。単元づくりについてはまだまだ工夫していかなければなりませんが、従来型の知識ベースに戻ることはなさそうです。

折りに触れて参照しなおす本だと思います。