『政治について話そう! スウェーデンの学校における主権者教育の方法と考え方』翻訳プロジェクトに感謝!すごくいい本でした
クラウドファウンディングで支援していた本が年末に届き、読んでみたところ素晴らしい内容でした。
すっかり興奮して、ほとんどやったことのない一人読書会を連続ツイートしたりもしたのですが、ブログの方にもまとめておきたいと思います。
クラウドファウンディングで支援していた本が昨日届いたので、さっそく読んでみたいところ、あまりに素晴らしい本だったので興奮している。 pic.twitter.com/7qEuwkMHaX
— Kohei Seki (@bokuto_kohei) 2020年12月30日
どんな本?
スウェーデンの主権者教育がテーマなのですが、政治を素材にしたメディアリテラシーの授業実践例が豊富にあって、めちゃくちゃ勉強になります。
IB、とくに言語と文学を教えている先生にとっては、とても参考になる本だと思います。
スウェーデンの若者の投票率は、2018年の総選挙で85%だったそうです。日本は50%いかないくらい? その高い投票率を支えているのが主権者教育。
「スウェーデンでは、学校に政治家を招くことが国の方針により奨励」(p.4)されていて(この時点で日本とは大きく違いますね)、その政党を学校に招くという活動をどうやれば上手くできるのか、スウェーデンの若者政策を担当する省庁が教員向けに作成した教材が、今回の本の原著です。
民主主義を教える
学校は、民主主義や人権について教える場である、という軸がとにかく明確。
民主主義を教えるということは、民主主義とは何かを教えるだけでなく、実践で示すことでもあります(p.10)
この指摘は耳が痛い。日本の学校でも民主主義は教えられていますが、校内で行われていることは本当に民主的か疑問です。
学校は価値中立ではない?
本書で一番しびれたのが「学校は価値中立ではない」という一節。
学校が価値中立ではないという事実が意味するのは、学校内で広まる価値観について、学校では常に民主主義的な価値観の側に立つ、ということです。
(中略)生徒は、さまざまな人々の権利に対して、時には民主主義的でない意見や考えを持つかもしれません。しかし、学校は核となる民主主義の価値においては中立的な立場ではなく、民主主義の価値に立脚し、民主主義の価値を伝えることを務めとします(p.17)
独裁や差別的な価値観も一つの価値観だとした上で、学校は「価値中立」でなく常に民主主義の方に立つ。ここまでシビアに考えるんだと驚きました。日本で言われる「政治的中立性」がぬるいものに思えてきます。
そして、この「基礎となる価値観についての学習」が浸透していれば、生徒自身が差別的な発言に対して批判的に判断できるようになる、というのが根底にあります。
豊富な授業実践例
ここまでが第1章のいわば理論編で、2章以降は実際に政党(政治家)を学校に招いてどういう活動ができるかの実践例が事前準備や評価も含めて豊富に紹介されています。
それは例えば、ディベート、哲学的な対話、ホットシーティングなど、日本でも馴染みのある活動なのですが、これを政治家と一緒にやります。
しかも生徒が運営することが前提の活動です。たとえば、「タイムキープをする生徒を決め、質問に対する政治家の回答が長すぎるときにはストップと言ってもらいます」(p.50)などとさらりと書いてあるのですが、日本の教室でできる気がしません(笑)
国語の授業でやってみたいのは「政治家が言いたいことは?」というエクササイズ。政党が出しているもの(ポスターやHP)、テレビで放映されたディベートなどを批判的に分析、検証します。
このあたりは、IB「言語と文学」と通じるものがあります。目指している方向性が似ているのでしょう。
生徒への問いかけ例もたくさん載っていて、問い作りの勉強にもなります。
例えばこんな感じ。
―メッセージを通して、彼らは私たちにどう思ってほしいのでしょうか?
―彼らはどのような世界を目指しているのでしょうか?
―メッセージの基礎にどのような事実を置いていますか?(p.48)
自分が普段授業で扱っている問いと、そもそもの発想が違うということに気付かされます。
Twitterを使いましょう。ディベート用のハッシュタグをつくることで、生徒たちはTwitterでディベートについてディスカッションすることができます(p.68)
とかがさらりと書いてあります。国の機関がこういうことを当たり前に書いてくれるなんて、良いなあと思いました。
その他、ディスカッションのテーマなども豊富に載っていて、生徒に今の政治や現実社会に目を向けさせるにはこう促せばよいのかと勉強になりました。
面倒なことを避けない
政党を招くことへの批判は、スウェーデンでも起こってるようです。そのことについて、印象的なコメントが掲載されていました。
この、面倒なことになるのを避けようとするやり方は大変危険だと思うのです。なぜならそれは、社会の中に息づいている政治的な問いかけや道徳的な問いかけが学校の中で問われず、生徒たちや若者がそれを議論する可能性を手にしなということを意味するからです。(p.94)
最後は原文ママです。(手にしない、かな?)
学校の現状、政治の現状を見るにつけ、この「面倒なこと」をずっと避けてきてしまったんじゃないかなと思わずにはいられません。
書籍情報
スウェーデン若者・市民社会庁(MUCF)【著】両角達平・リンデル佐藤良子・轡田いずみ【訳】『政治について話そう!スウェーデンの学校における主権者教育の方法と考え方』
出版社のサイトから注文できるようです。
訳者の方がブログで、出版までの経緯をまとめていらっしゃいます。
(私のツイートも掲載していただきました)
この本で読書会したいなー。