Senobi

私立の中高一貫校で国語を教えています。国際バカロレア、子どものための哲学、ワークショップ型の授業づくりに関心があります。

『「探究」する学びをつくる』これからの授業づくり、学校づくりのヒントが満載

昨年末に読んだ藤原さと『「探究」する学びをつくる』。

私の勤務校のように、「探究」や「プロジェクト」をやっている学校の先生は必読だと思います。

「探究」する学びをつくる

「探究」する学びをつくる

 

 

どんな本?

映画「Most Likely to Succeed」で評判になった学校、「ハイ・テック・ハイ」のプロジェクト学習について解説している本です。

学校で実際にどのようなプログラムが行われているのか、その実例やもとになっている考え方など、勉強になることばかりでした。

ちょうど話題になっていた時に映画を見逃したので、本書を読んでこんな内容だったら見ておけばよかったと後悔しています。どこかで上映していないかなぁ…。

 

軸が明確

先日記事で書いた『政治について話そう!』もそうなのですが、優れた実践をしているところはとにかく教育理念というか、軸が明確ですね。

ハイ・テック・ハイの場合は「公正(Equity)」です。

ここでいう「公正」とは、

誰もが、人種や性別や、性的な意識や、身体的、もしくは認知的能力にかかわらず、同じように価値ある人間だと感じとること(p.18)

と説明されています。

プロジェクトをただ行うのではなく、「公正性に向けての」プロジェクトであることが明確に示されています(p.33)。

驚いたのは、そのための方法が徹底しているところ。

入学者選抜を抽選で行い、地域や家庭での多様なバックグラウンドをもつ子供を積極的に迎え入れる。学年別のクラス分けなどは行わない。みんなでプロジェクトに携わる。

軸が明確だから、これだけ徹底して行うことができるのでしょうね。

 

美しく真正な学び

もう一つ、私が良いなと思ったのは「美しい学び」を大切にしているところです。

次の記述など、耳が痛い。

今の学校は、量をこなすことが求められるドリル問題、大量の暗記が求められるテスト、プレゼン発表と同時にゴミ箱行きになる成果物などで溢れているのが実情である。しかし、一度社会に出ると、当然のことながら、ゴミ箱行きと分かっていて真剣にプロジェクトに取り組む大人はまずいない。(p.39)

大量のプリントを刷って、生徒に渡しまくっている自分の授業を思わず反省してしまいました。

学校のいたるところに生徒の作品が飾られているそうで、そういう環境づくりから生徒の美意識を高めるのって大事だなと思います。

 

プロジェクトの進め方

本書では、ハイ・テック・ハイのプロジェクト学習を以下の9つの要素で説明しています。(p.84~86)

1.プロジェクトの開始

2.本質的な問い

3.アイディア出し

4.批評

5.学習スキル・知識・学習態度

6.プロトタイプと修正

7.発表会

8.評価

9.振り返り

一読して、IBの授業づくりや個人探究(パーソナル・プロジェクト)とよく似ているなと思いました(発想や目指す方向性が同じなのであたり前かも)。

 

本質的な問い

とくに「本質的な問い」(IBの授業では「探究テーマ」に当たる?)の重要性がこここでも示されています。

プロジェクトの中心にどのような問いやテーマを設定するかで、生徒の学びの方向性が決まります。逆に言うと、この部分が定まっていないと、何のために行っているのか良く分からないプロジェクト、発表や外部に見せることが目的化してしまったプロジェクトになってしまう可能性があり、注意が必要です。

「本質的な問い」の条件は、本書では次のように説明されています。(p.88)

1.広範で、革新的な思考、そして何層にも重なる探究を促すもの。

2.簡単には答えが見つからないもの。

3.生徒の想像力を捉えるもの。

4.仕事や研究、個人的もしくは家庭的な生活で問われるもの。

この観点大事!

 

教師の働き方

効果的なプロジェクトを行う上で、一番大切なのが先生たちの自由度。

「ハイ・テック・ハイは公立でありながら、指導書がありません。「何を」「どのくらい」教えるかは、それぞれの先生の裁量に任されています。だから授業をつくり出す先生たちは「次のどんな授業(プロジェクト)をさせようか」と、いつも目をキラキラさせながら考えています。(ハイ・テック・ハイに留学した岡さんのコメント、p.168)

これはすごく分かるなぁ。

私もIBのプログラムに初めて取り組んだとき、あまりの自由度の高さにびっくりしました。逆に、それまでいかに教科書(と指導書)に頼っていたのかを思い知らされました。

IBの規定や学校の制約がいろいろあるので、この学校のように「キラキラ」とまではいきませんが、授業づくりの面白さについてはずいぶん分かるようになってきたところです。

ハイ・テック・ハイでは、評価のやり方もそれぞれの先生に任されているそうです。これも驚きました。それだけ一人一人が信頼されているということでもありますね。

 

年々、学校でやらなければならないことが増え続け、どんどん縛りがきつくなっているように感じます。

積極的に縛りを緩め、自由裁量を増やしていくことの重要性は、教師も生徒も同じかなと思います。

自分たちのやりたい教育の軸を見定めて、もっと自由に、もっと教師と生徒が一緒に学びを楽しめるような学校を作っていきたいです。

 

今月、著者の藤原さんの勉強会にも参加させてもらう予定です。楽しみだなー。