Senobi

私立の中高一貫校で国語を教えています。国際バカロレア、子どものための哲学、ワークショップ型の授業づくりに関心があります。

読書感想文とIBの分析批評を比較してみた

Twitterで読書感想文のことが話題になっていますね。

それに関連させて、普段私が受け持っている国際バカロレア(IB)のコースでは、どのような作文指導を行っているか、紹介したいと思います。

(※あくまで私の学校の一例です。すべてのIB校が同じように取り組んでいるわけではありません。)

 

読書感想文ではなく、分析批評を書く

 

そもそも、読書感想文を課題にすることがありません。

近い課題としては、分析批評があります。

文学作品を読み、内容や書かれ方について分析し、その分析した内容をもとに批評を書く、というものです。

「小論文」や「コメンタリー」と呼ばれる課題です。

 読む作品については、授業内で扱った1つの作品について全員が書くときもありますし、生徒が各自で好きな作品を選んで書くときもあります。

作品のジャンルは小説が多いですが、詩や古典作品も使います。

また、テーマや問いについても、教師が提示したり、生徒が各自で設定したりと、学年や単元によって異なります。

 

評価の対象になる

読書感想文の場合、なぜ書く必要があるのか、という点でしばしば議論になります。

一つの目標として、コンテストに応募する、というものがあります(校内コンクールも同様)。

夏休みの宿題として読書感想文があり、夏休み明けにコンテストに応募する、というパターンが多いのではないでしょうか。

また、それを見越して、多くのコンテストが秋ごろの締め切りになっているようです。

コンテストで表彰されて成功体験になる、という一部の生徒はいるでしょうが、多くの生徒にとっては、自分の作文がどう評価されたのか、どう読まれたのかを知る機会はほとんどありません。

また、それがどう成績に反映されているのかもあいまいです。

 

一方、IBの分析批評の場合は、コンテストに出すことはしませんが、校内で評価し、年間の成績に反映します。

というのも、IBの定める評価基準の中に「分析」という項目があり、文学作品に代表されるテクスト分析を行う課題をやることが必須なのです。

担当教員は、提出された作文をルーブリックをもとに評価し、一人一人にコメントをつけるなどしてフィードバックします。

そうすることで、自分の分析批評がどの程度のレベルであったのかを、生徒は客観的に知ることになります。

 

書き方の指導をする

読書感想文の場合、あまり書き方の指導に時間が割かれません。

1学期の授業時間にそんな余裕がない、ということもあるでしょうし、そもそも読書感想文が何を目的とした文章なのかはっきりとしない、ということも原因でしょう(目的がはっきりしないので、書き方も教えられない)。

その結果、夏休み直前に、課題図書一覧やオススメ読書リストが配られ、ろくに書き方も習わないまま、いきなり原稿用紙〇枚、という量を書かされることになります。

真面目な生徒はそれでもやってくるでしょうが、多くの生徒はこれではやる気があがりませんよね。

(すみません、ちょっと悪く書きすぎています。かつての自分がまさにこのような丸投げ型の課題を出していたもので、反省しつつ書いています…。)

 

少し話はそれますが、なぜこのようなことになるのか。

読書感想文の目的が「夏休みの間に本を読む」ということにあって、ライティングのスキルを伸ばすことを目的にしていないからではないでしょうか。

とにかく「本を読む」ということが目的化していて、「どのように読むのか」という読む手法までの指導ができていない、ましては「どのように書くのか」というところまで手が届かない…

その結果としての「丸投げ」であるように思えます。

読書感想文は「読んだことの証拠」としてのみ扱われる、なんてこともありそうです。

 

文学批評の場合、いきなり書け、と言っても不可能です。

文学作品の分析の仕方、問いの立て方、意見の述べ方、論理的な文章の書き方、根拠の挙げ方など、様々なことを生徒に教えていく必要があります。

「どのように読むのか」「どのように書くのか」といったところを授業内で十分に指導するわけです。

もちろんその前提として、なぜ文学作品を読むのか、なぜ批評を書く必要があるのか、ということも機会があるごとに説明していきます。

成績に含める課題を出す前に「形成的評価」として一度書いてみて、フィードバックする、ということもやります。

このような準備段階を経て、ようやく「さぁ自分で書いてみよう」という課題が出せるのです。

 

 

これだけいろいろ教師はやりますが、それでも全員がすんなりと書けるようにはなりません。

また別の単元で、次の学年で、などと作品やテーマを変えつつ、同じような課題に何度も取り組みます。

その繰り返しがあるからこそ、生徒の作文のスキルも少しずつ上達し、読み方と書き方がともに身についてくるのだろうと思います。

 

 

今回は、読書感想文とIBの分析批評を比較してみました。

こういった観点で取り組めば、読書感想文の課題ももっと面白くなりそうです。

次回はより具体的に、どういう指導をしていくのかまとめてみたいと思います。