Senobi

私立の中高一貫校で国語を教えています。国際バカロレア、子どものための哲学、ワークショップ型の授業づくりに関心があります。

10の学習像って何?~国際バカロレア入門③

前回は「IBの使命(mission)」を紹介しました。

ただ、ミッションのままではあまりに抽象的なので、それがそのまま授業には生かせません。

平川理恵さんが著書『クリエイティブな校長になろう』のなかで、

ミッションは追い続けるもので、達成することはありえない。ビジョンは日本語に訳すと「目に見えるもの」。ミッションを目に見える戦術や戦略に落とし込んだものである。

と述べていたのですが、IBのプログラムでも、ミッションを具体的な教育課程に落とし込むために、さまざまなビジョン(=展望・見通し)が考えられています。

その中でも、とくに中核に位置するのが「10の学習者像」です。

 

10の学習者像って何?

10の学習者像(Learner Profile)とは、IBが価値を置いている人間性を10の人物像として表現したものです。

探究する人 (Inquirers)

知識のある人 (Knowledgeable)

考える人 (Thinkers)

コミュニケーションができる人 (Communicators)

信念をもつ人 (Principled)

心を開く人 (Open-minded)

思いやりのある人 (Caring)

挑戦する人 (Risk-takers)

バランスのとれた人 (Balanced)

振り返りができる人 (Reflective)

  (『MYP:原則から実践へ』)

プログラムを通してこれらの人間性を身に付けていくのが、IBのビジョンです。

 

どう使われるの?

IBで教える先生たちは、授業中や学校行事など、さまざまな機会にこの「10の学習者像」にふれて、生徒にチャレンジを促します。

また授業を設計する際には毎回、これからやる単元が10の学習者像のうち、どの人間性を身に付けるのに役立つのか、事前に計画に組み入れて言語化しておかなければいけません。

またIB校に見学に行くと分かるのですが、教室の中や廊下に、これらの学習者像がプリントして貼られています。

授業中に指し示したり、生徒に常に意識させておくための仕掛けです。

(ウェブでは掲示用の画像がいろいろ手に入りますし、また生徒がオリジナルの掲示物を作成している学校も多いです)

これくらい徹底して使います。

また、これだけ学校生活で何度も出会うからこそ、生徒に浸透し、意識するようになるのだと思います。

 

教師も学習者

この10の学習者像、全部を完璧に身に付けることなんてできません。それは大人も同じです。

ただし、これらがリストとして示されることで、生徒が自分の強みや、弱点について考える機会になります。

得意なものは自信をもって、苦手なものは少しでも身に付けられるよう努力しよう、という使い方です。

 

それぞれの学習者像には、その意味するところがより詳しく解説されています。

全部載せると長くなるので「探究する人」について、日本語版と英語版を紹介します。

(出典は同じ『MYP:原則から実践へ』)

私たちは、好奇心を育み、探究し研究するスキルを身につけます。ひとりで学んだり、他の人々と共に学んだりします。熱意をもって学び、学ぶ喜びを生涯を通じてもち続けます。

We nurture our curiosity, developing skills for inquiry and research. We know how to learn independently and with others. we learn with enthusiasm and sustain our love of learning throughout life.

主語が「生徒」ではなく「私たち」になっているところに注目してください。

この「私たち」には教師も含まれます。

教師だからって完璧が求めらるわけではなく(そんなものは無理です)、一人の学習者として自分の強みを生かし、弱点を改善できるように努力しよう、そんなメッセージを読み取ることができます。

 

10の学習者像を使うメリット

正直なところ、こんなふうにあからさまに目指すべき人間性を示すというやり方に抵抗を感じることもあります。

なんだか「学び」というものを狭くとらえているような気持ちにもなります。

 

ただIB校で何年か教えてきて、こういうふうにツール化し、生徒と教師との「共通言語」にすることで、学びに向かうモチベーションにつなげたり、生徒が成長を実感できる機会にもなる、というメリットは感じています。

抽象的な文言だけが空回りしないように、バランスよく使っていきたいところです。