ATLって何?~国際バカロレア入門⑦
ATLって何?
これまで見てきた「10の学習者像」「指導の方法」の他にも、IBでは様々な「使える」リストを用意しています。
そのうちの一つがATL(Apprpach to Learning)です。
「学習の方法」と訳されますが、要は生徒が身に付けるべき学びのスキルをリスト化したものです。
ATLの内容
IB(MYP)のプログラムでは、5つのカテゴリー、10の項目に分けて学びのスキルを挙げています。
(《 》がカテゴリー、番号が項目を示します。『MYP:原則から実践へ』をもとにしています。)
《コミュニケーション》
1.コミュニケーションスキル
《社会性》
2.協働スキル
《自己管理》
3.組織スキル(整理整頓するスキル)
4.情動スキル(心理状態を管理するスキル)
5.振り返りスキル
《リサーチ》
6.情報リテラシースキル
7.メディアリテラシースキル
《思考》
8.批判的思考スキル
9.創造的思考スキル
10.転移スキル
これだけだと抽象的すぎて使い物にならないので、IBのガイドでは、それぞれの項目についてさらに詳細に、スキルの具体例が示されています。
生徒がどのようにしてそのスキルを獲得していることを示すか、という一例です。
「情報リテラシースキル」について引用してみましょう。
• データを収集し、記録し、検証する。
• 伝えるべき情報にアクセスし、他者に伝える。
• さまざまな情報を関連づける。
• 情報にアクセスし、処理し、想起する際、個人的に好んでいる学習方法の利点と限界を理解する。
• 長期的な記憶力を発達させるために記憶術を用いる。
• さまざまな形式やプラットフォームで情報を提示する。
• 解決策を特定し、情報に基づいた決定をするために、データを収集し、分析する。
• データを処理し、結果を報告する。
• 特定の課題に対する妥当性に基づいて、情報やデジタルツールを評価し、選択する。
• メディアコミュニケーションを分析し解釈するために、批判的リテラシースキルを用いる。
• 知的所有権を理解し、実践する。• 参考文献への言及、もしくは文献からの引用を行い、必要であれば脚注(もしくは文末脚注)を使用する。広く認められている書式に従って参考文献目録を作成する。
• 一次資料と二次資料を特定する。
『MYP:原則から実践へ』(p.132)
これだけいろんなことができるようになって「情報リテラシースキル」が身についた、といえる、というリストです。
このように、10の項目それぞれについて、具体的なスキルの示し方が例示されています。興味のある方は以下のリンクから、ガイドブックのp.127以降を参照してください。
ATLリストの使い方
IBのやり方で上手いなぁと思うのは、以前紹介した「10の学習者像」や「指導の方法」も同じなのですが、このようにリスト化して、IBに関わる人間の「共通言語」を作っているところです。
ATLのスキルリストは、特定の教科で使うのではなく全教科で用います。各教科担当の教師は、授業設計の際にその単元の学習活動がどの学びのスキルを伸ばすのに有効なのかを、ATLリストの中から選ぶことで意識化します。
年間の学習計画を立てるときにも、年間でバランスよくスキルが身に付けられるように工夫しなければなりません(特定のスキルだけを伸ばすような偏った授業をしないように言われます)。
さらに、授業だけでなく学校行事や校外活動などでも、それらがどのように生徒のATLスキルを伸ばすのに有効なのか、という観点で計画されます。
事あるごとに使う、という感じですね。
もちろん、これらのリストは教師だけが持っているのではなく、最初から生徒と共有しておきます。
そうすることで生徒は、その単元がどのような学びをスキルを伸ばすのに役立つのか、また学び終わった後にどのくらい自分にスキルが身についたのか、ということを自分で確認することができます。
いわゆる「学び方を学ぶ」というやつです。
最初は、ここまで明示的にやるのか、と驚きましたし、抵抗もありました。「学んでいくうちに自然と身についている」というモデルの方に馴染みがあるからです。
ただ、特に国語科はそうですが、何の勉強をしているか分からない、この勉強でどんな力が身についたのか実感がわかない、という批判をよく受けます。
犬塚美輪『14歳からの読解力教室』でも述べられていましたが、教師が今何をやっているのかをもっと直接的に生徒に話していくことが求められるのだと思います。
リストの押し付けや形式主義になってしまっては元も子もありませんが、上手く活用できれば、生徒を伸ばすための良いツールになります。