国際バカロレア「言語と文学」での古典の扱い(3)
これまでに、国際バカロレア(IB)の「言語と文学」では、古典作品をどのように扱っているか、その概要、授業や試験のスタイルについて説明してきました。
では次に、IBのやり方をとった時のメリット・デメリットについて考えてみたいと思います。
今日はメリットの方を説明します。
メリット1:1つ作品について深く学べる
まずはこれです。
一般的な古典の授業の場合、教科書の抜粋を使いながら様々な作品を読んでいきますが、1つの作品について割ける時間が少なくなるため、どうしても急ぎ足になります。
また、単元の大半が本文の内容理解、解釈に割かれ、そこで終わってしまう場合も少なくありません。
IBの単元の場合は、1つの作品を通読し、また作品の時代背景や、その作品のもつ価値についてさまざまな角度から考察します。テクスト分析の手法を用いて、本文を詳細に検討したり、他の作品(近代の小説など)と比較して論じる、という活動もあります。
このような活動を通して、生徒は授業で取り上げた作品について深く理解していくことができます。
メリット2:生徒主体の探究ができる
一般的な古典の授業では、該当箇所をどう訳すか、ということが学習活動の中心になります。大学入試などで、初見の問題を自力で読み解く力を身につけさせる必要があるためです。
一方、IBの単元の目標は、作品やトピックを概念的に理解し、それについて自分で考えたり、論じたりできることにあります。
そのため、該当箇所の作品全体における意義は何か、その点についてどのように論じることができるか、などについて考えることが学習の中心になってきます。
前提となる知識・理解は重要ですが、書かれてある内容を理解して終わり、にはなりません。そこからどのようなオリジナルの意見が言えるか、どうそれを正当化できるか、まで求めます。
ですから、古典作品を読む授業であっても、生徒主体の探究になっていきます。
メリット3:学習の意義が伝わりやすい
上の2つとメリットと重なりますが、このような学習スタイルを取るため、生徒にとっても学習の意義が伝わりやすい、という利点があります。
前回の記事でも書いたように、「古典を読むこと」そのものは学習の目標になり得ません。教師の何らかの意図(例えば、作品から読み取れる時代によるものの見方の違いを学ぶ、など)をもって、その意図にふさわしい教材を選択します。
また、その作品の意義や、選んだ意図についても授業中に生徒に十分に説明します。
逆に、それができないのであれば、授業の設計が不十分だとみなされます。
私もそうですが、最初に教科書があると、ついそれに頼って、その順番通りに読んでいく、というカリキュラムにしてしまいます。
そして、なぜその作品を学ぶ意義があるのか、というところの説明が十分でないまま、授業が進行していく。
そうなると、なぜ古典を学ぶ必要があるのか、と思う生徒が出てきても無理はありません。
IBのような単元設計、授業スタイルを取ることで、学ぶ側からしても、なぜこの授業ではこの作品を読んでいるのか、ということが明確です。
それに伴って、古典作品を読むことの意義についても、理解しやすくなるのではないかと考えられます。
以上、メリットを3点にまとめて紹介しました。
次回は、デメリットについても考えてみたいと思います。