Senobi

私立の中高一貫校で国語を教えています。国際バカロレア、子どものための哲学、ワークショップ型の授業づくりに関心があります。

【読書】『大人が変われば、子どもも変わる 発達障害の子どもたちから教わった35のチェンジスキル』職員室で共有したい!

生徒指導のやり方については、直接的に学ぶ機会がそう多くありません。学校に勤め始めてから、ベテランの先生や先輩教員のやり方を見ながら、経験的に身に着けていくことが多いのではないでしょうか。

または、自分が学生のときに受けてきた生徒指導の経験があるものだから、無意識的に「こういうものだ」と再生産していることもあるように思います。

 

たまたま良いモデルケースに出会えれば良いのでしょうけれど、たいていの生徒指導は今も「管理型」です。

ひどいときには、人権侵害につながるケースもあります。

これらの、生徒の感情を無視した生徒指導、行き過ぎた生徒指導をモデルケースにしてしまった場合は不幸です。

それに気づくためには時間が必要で、その間に多くの子どもたちを傷つけてしまうかもしれません。

 

阿部利彦『大人が変われば、子どもが変わる 発達障害の子どもたちから教わった35のチェンジスキル』(合同出版、2020年)を読みました。

 

つい前置きが長くなったのは、この本を読んで、初任の頃に読みたかった!と思ったからです。

タイトルに「発達障害の子どもたち」とありますが、発達障害の子への対応に限らず、普段学校で子どもたちと接する上で、広く活用できるスキルが満載でした。

 

しばらく前までは、子どもたちを良くしたいという思いから、ずいぶん一方的なことをやっていました。

勉強しない生徒に、なんとかやる気を出させようと三者面談の時に問い詰めたり、

問題を起こした生徒に「改心」させようと、長時間説教したり、

たるんでいるクラスの雰囲気を変えようと、全員の前で怒鳴ったり…

今から思うと、生徒の心情より、自分がこうしたい、ということが優先された行動だったんだなあと申し訳なくなります。

最初の「良く」のところがすでに、こちらの価値観の押し付けなんですよね。

 

例えば、本書の第2章「しかるスキル」には、次のようなスキルが並んでいます。

①子どもに響くしかり方を工夫する

②ポイントを決めて、短くしかる

③質問形式の言葉は使わない

④「裏を読ませる」言い方を減らす

⑤あいまいな表現は避ける

⑥「罰によるコントロール」に依存しない

⑦しかり方のムラをなくす

恐ろしいことに、以前の私は全部逆をやっていましたね。

工夫もなく、長時間にわたり、「なんでこんなことやったんだ!」と問いつめ、…

その当時は良かれと思っていたことが、相当ずれていたようです。

 

ちなみに、質問形式でしかる、というのは学校現場でよく使われます。

「なぜこんなことをやったんだ!」と先生が聞くので、「面白いと思ったからです」と答えたら「そんなことを聞いてるんじゃない!」とまたさらに怒られる。答えようがないので黙っていると、「なにか答えろ!」と怒鳴られる。理不尽ですね。

そのため、国語の授業や哲学対話のときに「なぜ~だと思った?」と私が連発すると、怒られている、と感じる生徒が大勢いるのです。こちらは単に問うているだけなのに。

こういう弊害も起こります。

 

もう一つ、読みながら思い出したのは、注意の仕方についての違いです。

海外の教育実践について学ぶワークショップに参加していたとき、たしかオランダだったと思いますが、講師の先生から、

注意するときは、その子の近くに行って静かに注意する。真剣に注意したい時ほど、小声で説明する。さらに重大なときには、その場で注意することは止め、後で呼び出して個別に話をする。その子のプライバシーに関わる問題だから。

逆にほめたい時には、全員の前で大声でほめる。

という話を聞いたことが印象的でした。

それまでは、しかる時には全員に聞こえるようにしかるのが効果的、その方が他の生徒もやらなくなる、というやり方が自分にとっての「普通」だったからです。

(そういうやり方を本で読んだか、先輩から習ったのか、もう忘れましたが、今でもそういうやり方は行われているのでしょうか?)

打たれ強い男子の場合は、かなり厳しめに怒る、なんてことも言われていました。

一種の見せしめですね。今考えるとひどい話です。

 

こういう経験があったために、子どもとの接し方が自分はずいぶん間違っていたのではないかと、学びなおすきっかけになりました。

 

生徒指導は、本人が良かれと思ってやっているだけに、その問題点や感覚のズレに気づきにくいということがあります。また、他の先生のやっている生徒指導に口出ししづらいのも実情です(ベテランの先生であればなおさら)。

ただ、「管理型」の生徒指導はもっと見直されるべきでしょうし、実際に生徒指導によって傷つく生徒が生まれないようにしなければなりません。そのために教員研修をしたり、全員で共有するガイドラインのようなものを決めて、学校全体で共通認識を作っていくことが必要です。

 

例えば、本書を職員室に置いておいて全員で共有したり、この中のスキルをどれくらい実践しているのかについて読書会をしたり、いろいろと活用できそうです。

 

今回は生徒指導や「しかる」という点に特化した内容を書きましたが、この本には「ほめるスキル」「伝えるスキル」「励ますスキル」など、他にも様々な観点から子どもと接する具体的なアドバイスが載っています。

自分の「思い込み」から距離をとるためにも、若手の先生に薦めたい一冊です。