【読書】『本の読み方 スロー・リーディングの実践』
ずっと前に読んでいたこの本を読み返してみたのですが、かなり使えます!
(今はPHP文庫に入っているんですね、私が持っているのはPHP新書版です)
本書では、大量の本をむやみに速読で消費するのをやめ、もっと楽しく豊かな読書=スロー・リーディングに読者を促します。
第1部と第2部では、スロー・リーディングの基本的な考え方や具体的なテクニックが紹介されます。
そもそも中高生の場合は大量に本を読んでいないことが問題なわけですが、そのことはひとまず置くとして、この本で述べられている考え方や方法は中高生にもぜひ知ってほしいところ。
小説を読むとき、細部を捨てて主要なプロットに還元する読み方をやめて、むしろ、プロットへの還元から零れ落ちる細部にこそ、目を凝らすべきである。差異とは常に、何か微妙で、繊細なものである。(p.47)
本を読む喜びの一つは、他者と出会うことである。自分とは異なる意見に耳を傾け、自分の考えをより柔軟にする。そのためには、一方で自由な「誤読」を楽しみつつ、他方で「作者の意図」を考えるという作業を同時に行わなければならない。(p.72)
常に「なぜ?」という疑問を持ちながら読むこと。これは、深みのある読書体験をするための一番の方法である。そして、読者が本を選ぶように、本もまた、読者を選ぶのである。会話の中で、聴く気のない相手に対して、人が「この人に話しかけても仕方がない」とそっぽを向いてしまうように、「なぜ?」という疑問を持たない人には、本は永遠に口を閉ざしてしまうだろう。(p.74)
例えばこのような小説を読む心構え、読書論が語られるわけですが、こういう部分をみんなで読んでディスカッションをしたり、自分の読み方について振り返ってみるような授業をしたいなと思う。
第3部からは実践編です。著者が実際にスロー・リーディングの手本を示してくれています。
実際に授業でもテクスト分析を行ったりするのですが、生徒が読むのにちょうどいい見本があまりないんですよね。論文では難しすぎるし…結局自分で作ってみたりするのですが、この本で紹介されている分析のやり方と解釈は生徒に示す例としてもぴったりだと思います。
『こころ』『高瀬舟』といった定番教材が取り上げられているのも、高校の現代文で使いやすいところです。
また、カフカの『変身』と『橋』を比較して読んだり、金原ひとみ『蛇にピアス』と谷崎潤一郎『刺青』の比較などは、最近IB「文学」でも取り上げられる「テクスト間の関連性」の好例です。
IBプログラム「文学」の授業、または新学習指導要領の「文学国語」の授業づくりのヒントとして、とても参考になる本でした。
初版が2006年の本ですが、自分の授業の作り方がようやくこの本に近いところに来たな、という発見がありました。