国際バカロレア「言語と文学」での古典の扱い
古典に関する高校生主催のシンポジウムが開かれたそうですね。残念ながら参加できませんでしたが、どのような話し合いが行われたのか、聞きたかったです。
よく、国際バカロレア(IB)では古典をやらないんですか、という質問を受けます。
古典作品を勉強しないわけではないのですが、その扱いは一般的な高校と大きく異なります。
その扱いの違いをご紹介します。
IBのカリキュラム
まず、高校では(現行では)「現代文」「古典」と科目が分かれますが、
国際バカロレアのDP(ディプロマプログラム、高校2、3年にあたる)では、第一言語の科目として「文学」と「言語と文学」という科目があります。(海外では他に「文学とパフォーマンス」という科目もある)
ですから、そもそも現代文/古典という分け方をしていません。
このあたりですでに、考え方の土台が全く異なります。「古典」を高校の科目ということで考えるならば、「高校生に古典は必要か?」という問い自体が成り立たなくなります。
DPのカリキュラムを作成する際には、現代文/古典という枠で考えるのではなく、2年間でどのような単元を行い、どの単元でどのテクストを取り上げるか、というように考えていきます。
テクストの取り上げ方
高校の「古典」の場合、教科書には古代から近世まで、「竹取」「伊勢」「源氏」「おくのほそ道」…漢文も合わせて実に多くの作品が掲載されています。
IBの場合は、そもそも教科書がありません。
近代小説、現代の小説、評論、古典作品、詩歌など、どのテクストをどのタイミングで取り上げるかは、担当する教師に任されています。
また、テクストは教科書のような抜粋ではなく、作品全部、一冊丸ごと扱うのが通常です。
(「源氏」など、長い場合は一部でもよい)
生徒は、教科書の代わりに文庫本などを各自購入し、それで授業を行います。
カリキュラムの条件
では、全く自由かというとそうでもなくて、カリキュラムを作成する際には、IB協会が定めるガイドラインがあり、それに従う必要があります。(全世界共通)
詳しくは割愛しますが、私の勤務校でもやっている「言語と文学」の場合、
・2年間で少なくとも6つの作品を学習する
・3種類の文学形式を学習する(文学形式とは、小説、エッセー、評論、戯曲、詩などのジャンルのことです)
・3つの時代の作品を学習する
などの条件があり、それを満たすように教材となる作品を選択していかなければなりません。
(ちなみに、2年間で6作品とは少ないと感じられると思いますが、これは「言語と文学」が、文学作品の他に、広告や映像作品などの非文学作品の学習を含むカリキュラムだからです。文学作品のみを学習する「文学」の科目の場合、倍くらいの数の作品を2年間で扱います。)
IBの「指定作家リスト」
最初に現代文/古典で区別しない、と書きましたが、いま述べたような条件を満たす必要上、作品は「文学形式」と「時代」によって区分されています。
そして、IB協会はそれらを「指定作家リスト」という形でまとめています。
「指定作家リスト」は、IB校で科目の担当者になると参照できる権限がもらえ、基本的にはその中から作品を選択するように求められます。
(教師が好きな作品を選ぶ単元を作っても良い)
このリストには、高校の文学史に出てくるような作家名や、現代の主な作家がほとんど載っています。
また「古典作品」もいろいろと載っています。
例えば「源氏物語」であれば「11世紀」「散文:フィクション」という区分です。
「古今和歌集」は「10世紀」「詩歌:和歌」、
「おくのほそ道」は「17世紀」「詩歌:俳句、散文:ノンフィクション」、
というように、時代や文学形式を中心とした扱われ方になっています。
なぜこのような条件をつけているのか
IBがこのような条件をつけているのは、教師によって教える内容に極端な偏りが出るのを防ぐためです(近代小説ばかり学習するなど)。
IBは、幅広い視点で物事をとらえられる学習者を育てることを使命としているため、なるべく複数のジャンルや時代の作品を学習してほしいというねらいが読み取れます。
このように考えてみるとIBも、作品としての「古典」を学ぶ意義を十分認めていると言えます。
概要を説明しているだけで、ずいぶん長くなってしまいました。
この他に、学習の仕方や評価方法の違いもあります。また、それらを踏まえたうえで、メリットやデメリットについても考えてみたいと思います。
また来週にでも続きを書きます。