Senobi

私立の中高一貫校で国語を教えています。国際バカロレア、子どものための哲学、ワークショップ型の授業づくりに関心があります。

概念ベースの単元と、そうでない単元の見分け方

ここ数年、IBの教育に携わりながら、概念ベースの学習(Concept Based Learning)をどうすれば実行できるのかについて考えてきました。

何をもって「概念ベース」の単元とするのか? それはどのように判断できるのか?

現時点での自分の理解を、以下にまとめてみたいと思います。

 

授業のスタイルを分類してみる

授業のスタイルをいくつかに分類してみます。

(1)知識ベース…古典文法を覚える、英単語を覚える、歴史事象を覚えるなど、知識の暗記を目指した授業スタイル

(2)スキルベース…読む、書く、話す、聞くなど、スキルの習得を目指した授業スタイル

(3)教材ベース…これは国語科特有なのかもしれませんが、教材の内容理解を目指した授業スタイル(「走れメロス」を読む、など)

で、「概念ベース」の場合は、そのすべての要素を含めつつ、さらなる理解を目指す授業スタイルと言えます。

(4)概念ベース…知識、スキル、教材に加え、それ以上の理解を目指す授業スタイル

 

概念ベースの学びで得られるもの

では、それ以上の理解とは何か?概念ベースの学びを通して得られるものも、いろいろ想定できますが、5つ挙げてみます。

①抽象思考・考え方の枠組み

②批判的思考

③他の単元、他教科の学習とのつながり

④他の文脈、実社会とのつながり

⑤学ぶ意義、学ぶ面白さ

以下で、それぞれ説明します。

 

①抽象思考・考え方の枠組み

「概念」とは、抽象的なキーワードのことです(例:コミュニケーション、変化、など)。「ビッグ・アイデア」とも言われます。エリクソンは、ものの見方の「レンズ」の役割を果たすと言っています。

この「概念」を用いることで、生徒に抽象思考を促し、考えるフレームを構築することができます。

「概念」について考えるための問いとしては、

・国や地域によってどのような習慣、考え方の違いがあるか?

・コミュニケーションにおける問題とは何か?

など、教材や具体的トピックを離れた抽象度の高い問いが選ばれます。

(※ちなみに、問いの例は「異文化コミュニケーション」をトピックとした場合の例です。以下同じ)

 

②批判的思考

先ほどの抽象思考を用いることによって、学んだ内容を批判的に考えることができます。

批判的な思考を促す問いとしては、

・なぜ対立やトラブルが起こるのか?

・習慣や価値観の違いをどう乗り越えることができるのか?

など、多角的に考えたり、生徒同士の議論を促すようなものが良いでしょう。

 

③他の単元、他の教科の学習とのつながり

「概念」を授業に導入するメリットに、学びが単元で完結せず、広がっていく、というものがあります。「概念」をハブにして、学びの「転移」を期待するわけです。

例えば教科の学習にしても、これまでに学んだこと、これから学ぶことと、今学んでいることはどうつながるのか、という点について生徒に意識させることができます。

また、抽象度の高いキーワードを用いることで、教科の中だけでなく、他教科とのつながりを作ることもできます。

・価値観の違いは、他の作品やメディアではどのように描かれているか?

・どのような歴史が関係しているか?(国語科と社会科の連携)

このように、生徒が他の文脈について考えるように促す問いかけが有効です。これらをうまく機能させるためには、カリキュラム・マネジメントや教科間の連携が必須です。

 

④他の文脈(コンテクスト)、実社会とのつながり

先ほどの③は学校内の学びの話でしたが、さらに学校外の状況と、今学んでいることを関連させるのにも「概念」は有効です。学んだことを概念的に理解することで、他の状況に応用しやすくなるのです。

・文化や価値観の違いから、実際に生じているトラブルにはどのようなものがあるか?

・どうすればより良い社会になるのか?

など、時事ニュースや、グローバル・イシューを積極的に授業で取り上げるようにしていきます。

 

⑤学ぶ意義、学ぶ面白さ

①の抽象思考、②の批判的思考を通して、生徒は「考えること」そのものの面白さを経験することになります。

また、③や④にあるように、学んだことを、次の学びや行動に生かそうとします。これがまさに「探究」です。

以上のようなプロセスを何度も繰り返すことで、学ぶことや、自分自身の成長を楽しむことにつながり、さらには生涯にわたる学習者(Lifelong Learner)に近づくことになるでしょう。

 

生徒に概念理解を促すために

以上の観点をふまえると、生徒に概念理解を促すためには、単元の中に以下のような内容を組み入れていくことが重要になります。

・抽象思考を促す問いや課題

・批判的思考を促す問いや課題

・これまでの単元で学んだことを生かせる問いや課題

・これから学ぶこととのつながりを示す教師の説明

・他教科で学ぶことととのつながりを示す教師の説明(または学際的単元を行う)

・時事問題、グローバルな問題について考える問いや課題

もちろん、これら一つの単元にこれらすべてを含めることは難しいでしょうが、複数の項目は組み込みたいところです。

 

概念ベースの単元になっているかどうかのチェック

上記に書いた内容をもとにすれば、授業設計の際に、またはふりかえりのときに、その単元が生徒の概念理解を促すものであるのかをチェックすることが可能です。

次のような問いかけを、自分自身の作った単元に当てはめて考えてみてはどうでしょうか。

・どのような問いや課題を工夫して、生徒の抽象思考や批判的思考を伸ばしているか?

・これまで学んだこと、今学んでいること、これから学ぶこと同士の関連や、教材や単元の枠を超えた学びのつながりを、生徒にどう示しているか?

・他教科の学びとの関連や、教科の枠を超えた学びのつながりを、生徒にどう示しているか?

・単元で学ぶことと実社会やグローバルな問題との関連を、生徒にどう示しているか?

・単元を通して生徒がどのように学ぶ意義を感じ、学びのモチベーションを高めると期待できるか?

 

このような観点を常に意識して授業を計画することで、生徒の概念理解を促す「概念ベース」の単元が作れるようになってくると思います。