Senobi

私立の中高一貫校で国語を教えています。国際バカロレア、子どものための哲学、ワークショップ型の授業づくりに関心があります。

【読書】『本の読み方 スロー・リーディングの実践』

ずっと前に読んでいたこの本を読み返してみたのですが、かなり使えます!

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP文庫)
 

 (今はPHP文庫に入っているんですね、私が持っているのはPHP新書版です)

 

本書では、大量の本をむやみに速読で消費するのをやめ、もっと楽しく豊かな読書=スロー・リーディングに読者を促します。

 

第1部と第2部では、スロー・リーディングの基本的な考え方や具体的なテクニックが紹介されます。

そもそも中高生の場合は大量に本を読んでいないことが問題なわけですが、そのことはひとまず置くとして、この本で述べられている考え方や方法は中高生にもぜひ知ってほしいところ。

 

小説を読むとき、細部を捨てて主要なプロットに還元する読み方をやめて、むしろ、プロットへの還元から零れ落ちる細部にこそ、目を凝らすべきである。差異とは常に、何か微妙で、繊細なものである。(p.47)

 

本を読む喜びの一つは、他者と出会うことである。自分とは異なる意見に耳を傾け、自分の考えをより柔軟にする。そのためには、一方で自由な「誤読」を楽しみつつ、他方で「作者の意図」を考えるという作業を同時に行わなければならない。(p.72)

 

常に「なぜ?」という疑問を持ちながら読むこと。これは、深みのある読書体験をするための一番の方法である。そして、読者が本を選ぶように、本もまた、読者を選ぶのである。会話の中で、聴く気のない相手に対して、人が「この人に話しかけても仕方がない」とそっぽを向いてしまうように、「なぜ?」という疑問を持たない人には、本は永遠に口を閉ざしてしまうだろう。(p.74)

 

例えばこのような小説を読む心構え、読書論が語られるわけですが、こういう部分をみんなで読んでディスカッションをしたり、自分の読み方について振り返ってみるような授業をしたいなと思う。

 

第3部からは実践編です。著者が実際にスロー・リーディングの手本を示してくれています。

実際に授業でもテクスト分析を行ったりするのですが、生徒が読むのにちょうどいい見本があまりないんですよね。論文では難しすぎるし…結局自分で作ってみたりするのですが、この本で紹介されている分析のやり方と解釈は生徒に示す例としてもぴったりだと思います。

 

『こころ』『高瀬舟』といった定番教材が取り上げられているのも、高校の現代文で使いやすいところです。

また、カフカの『変身』と『橋』を比較して読んだり、金原ひとみ蛇にピアス』と谷崎潤一郎『刺青』の比較などは、最近IB「文学」でも取り上げられる「テクスト間の関連性」の好例です。

 

IBプログラム「文学」の授業、または新学習指導要領の「文学国語」の授業づくりのヒントとして、とても参考になる本でした。

初版が2006年の本ですが、自分の授業の作り方がようやくこの本に近いところに来たな、という発見がありました。

 

【読書】『思考する教室をつくる 概念型カリキュラムの理論と実践』待望の邦訳が出た!

今日取り上げるのは、こちらの本です。

 

国際バカロレアをやるうえで、プログラムの理論的土台となっているこの本は、IB教員であれば必読です。

原著の方は、昨年夏に研究会仲間で読書会を行ったのですが、自分の英語力ではなかなか理解したと言えない部分が多々ありました。

 

やっと日本語版が出た!というわけで、さっそく読んでみました。

「概念型カリキュラム」というのが聞きなれないと思いますが、帯で鈴木寛氏が書いているように、新学習指導要領にこの考え方が取り入れられてきています。

今後もその傾向は続くでしょうから、IB校以外の先生方にとっても参考になる部分は多いと思います。

 

基本的な考え方

この本は、一言でいえば、教員に従来型のカリキュラムと指導から「概念型のカリキュラムと指導」へマインドシフトを迫るものです。

 

 

従来は、知識やスキルを身に付けることが中心でした(内容網羅型)。しかしそれでは浅い認知プロセスしか経験できないと本書はいいます。

生徒がより高次の思考をするにはどうするか。そこで登場するのが「概念」です。

事実レベルと概念レベルの思考を行ったり来たりすることで、生徒の知力は伸びる、というのが本書の基本スタンス。

 

それを具体的に引き起こすための単元づくりの方法を、詳細に説明しています。

 

概念って何?

本書で説明されているように「トピック」と「概念」を区別して捉えてみると、なんとなくイメージできるかと思います。(

 

本書で挙げられている「トピック」の特徴は以下のようなものです。

トピックは特定の人々、場所、状況、または物に関する一連の事実の枠組みとなるものである。トピックは、学習単元に文脈を提供する。

 トピックは、転移しない。トピックは、特定の実例と関連している。

〈例〉

・アマゾン熱帯雨林の生態系

・現在の難民危機に対するヨーロッパの対応

・数学の式と方程式

ピカソ:芸術と影響 (p.41)

 

対して「概念」は以下のように説明されています。

概念とは、トピックから引き出された「思考の構築物(mental construct)」で、a)時を超越している、b)1~2語の単語か短いフレーズで表される、c)普遍的かつ抽象的(程度は異なるが)である、という性質をもつ。概念の具体例はさまざまにあるが、共通の性質をもっている。概念は転移する。そして、一般化が可能であるという性質がゆえに、トピックより高いレベルの抽象性を呈する。また概念は、一般性、抽象性、複雑性のさまざまなレベルにおいて創発する。概念は、マクロでもミクロでもあり得る。

〈例〉

・システム

・秩序

・生息地

・価値

・一次関数 (p.42)

 

「一次関数」とかはトピックなんじゃないかとも思いますが、「ミクロの概念」にあたるようです。

 

そして、複数の「概念」を用いて、生徒が単元を通して理解すべきことを明文化していくというのが教師の大事な役割です。本書では「一般化(generalizations)」と呼ばれています。

一般化とは、思考を要約した文のことで、「この学習によって、何が理解できるか」「どのような学びが新しい状況に転移するのか」などといった学習の関連性についての問いに答えるものである。(p.50)

 

概念型単元を設計するステップ

この本で紹介されている単元づくりの手順が面白いんです。自分がこれまで行ってきた単元づくりの方法とはまるで違う。

本書の第3章をもとにまとめてみます。簡単な説明は私の解釈です。

 

①単元名を決める

・中心となるトピックや文脈を決めます。学習を焦点化するためです。

 

②概念レンズを決める

高次の思考へと生徒を促すために、どの概念を持ちいるのかを決めます。

 

③単元の領域を決める

教科内のどの領域で行う単元なのかを決めます。(国語だと、現代文とか古典とか?)

 

④トピックと概念を単元の領域の下に書く

まずは教師が「概念的に」ブレインストーミングを行います。中心となるトピックや概念は決めていますが、それ以外にどんな概念やトピックが扱えるのかを検討します。このプロセスで単元設計に広がりが生まれます。

 

⑤その学習の単元から生徒に導き出してほしい一般化を文にする(生徒が概念的に理解しなければならないこと)

指導案でいう目標にあたる部分。ここをどう書くかによって、良い概念型の単元計画になるのかどうかが決まります。知識ベース、スキルベースの目標ではなく、②で選択した概念について、生徒がどのような理解をするのかを「明文化」します。

 

⑥思考を促す問いをつくる

生徒が概念理解に到達するために、様々な問いを用意しておきます。問いの内容によって、事実的に関する問い、概念的な問い、議論を喚起する問い、に分けることができます。

 

⑦必須内容を決める(生徒が必ず知るべきこと)

単元の中で生徒が知る知識(事実)を特定します。

 

⑧主要スキルを決める(生徒が必ずできるようになるべきこと)

単元の活動を通して、生徒が身に付けるスキルを特定します。

 

⑨単元末評価課題および採点ガイドを作成する

評価のための課題を考えます。大事なのは「知識を確認するための課題にしない」ということです。あくまで⑤で設定した目標が、生徒の中でどのように達成されたのかを確認できるような課題の中身を考えなければなりません。

 

⑩期待される学習経験を設計する

生徒が単元の中でどのように学習をすすめ、評価課題に取り組んでいくのか、そのモデルを考えます。

 

⑪単元の概要を書く

これまでに考えたことをふまえて、生徒に説明するための単元の概要を考えます。

 

いかがですか? 教科書・教材ベースの単元づくりとはまるで発想が異なることは伝わると思います。

私の場合は、IBの推奨する単元づくりのステップをこの数年学んできました。IBの単元づくりの方法は細部では異なる部分があるのですが、大枠は同じです。

 

従来型の単元づくりと違い、生徒を「認知レベルで」ここまで伸ばす、ということを明文化しなければならないのが大変なところです。

これを覚えればいい、これができるようになればいい、という目標設定とはレベルが異なります。(そしてそれが達成できているのかどうかを判断するための課題も考えなければならない)

実際自分でやり始めてはみたものの、それこそマインドシフトが大変でした。

 

ただ、数年間やっているうちに、徐々に慣れてはきました。単元づくりについてはまだまだ工夫していかなければなりませんが、従来型の知識ベースに戻ることはなさそうです。

折りに触れて参照しなおす本だと思います。

 

【読書】『イエナプラン 共に生きることを学ぶ学校』実践者向けガイドブック

先日、クラウドファンディングで支援していた本が届いたので、さっそく読んでみました。

 

前に、リヒテルズ直子『今こそ日本の学校に!イエナプラン実践ガイドブック』(教育開発研究所)を読んで、イエナプランの大枠については知っていました。

 

今回のこちらの本はオランダで刊行された教本の訳書ということで、実際に学校でどう実践するのかを書いた、より具体的なガイドブックになっています。

 

本書は3章構成になっており、

第1章はイエナプランの歴史や理念、概要の紹介。

第2章は「イエナプランをやってみよう!」と題されていて、イエナプランの「コア」にあたる内容をどう実践していくかの具体的な手引きです。

この章には、実際の教師の子どもへの声がけ例や、上手く実践するためのチェックボックスなどが充実していて、参考になりました。

次の第3章は「イエナプランとともに歩む」は示し方がユニーク。

グループ作りの形式、共に遊ぶ、学校環境、自分で作る週計画、評価、保護者など、学校にまつわる様々な観点を挙げて「どうしたらイエナプランらしくなるか」という共通の問いについて「グッド・ベター・ベスト」の3段階で解説する、という構成になっていました。

 

私も、ここ数年国際バカロレアの授業づくり、学校づくりに関わってきたのでよく分かるのですが、いきなりスイッチを切り替えるようにぱっと変わったりはできないんですよね。

これまでの授業スタイル、学校のシステムがあって、それを何とかちょっとずつ変えて次の目指す方向に舵を切っていく。

「グッド・ベター・ベスト」のように、教員の側にもスモールステップが示されている設計はとても良いと思いました。今度真似してみよう。

 

難しいのは、イエナプランとはこのようにするものだ、という内容が固定化されていない、というところです。

本書の最初の方で、オランダにイエナプランを根付かせたフロイデンタールの考えが紹介されています。

イエナプランは、教員がしなければならないことを定めた指導要領でも、こうすべきであると手順を固めた教授方法でもなく、ビジョンであり、根本的な姿勢であり、生きていく上での確信なのです。(p.13)

 

サークル対話、ブロックアワー、ワールドオリエンテーションなど「イエナプランらしい」活動はいろいろありますが、これができたらイエナプラン校だ、という確たるものはない。

 

中川綾『あたらしいしょうがっこうのつくりかた』(ナガオ考務店)では、日本初のイエナプランスクール開校に向けて、「イエナプランを名乗るとはどういうことか」試行錯誤しながら形にしていくプロセスが紹介されていました。

あたらしいしょうがっこうのつくりかた

あたらしいしょうがっこうのつくりかた

  • 作者:中川 綾
  • 発売日: 2019/11/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

ここでもキーワードは対話です。

イエナプランは「メソッドではなくコンセプト」と言われます。だからこそ、学校に関わる人全員が話し合いながら、自分たちで具体化していかなければならない。

コンセプトがオープンであることは、私たちにたくさんの自由があるということですが、同時に、それは、私たちに選択を迫ります。あなたは今後、自分の学校をさらに、どのように発展させていきたいのでしょうか。どういうものがあなたやあなたの学校の教職員チームや子どもたち、そして保護者にふさわしいのでしょうか。こうした選択はみんなで一緒にやらなくてはなりません。(略)自ら関与(エンゲージメント)することがなければ、責任も生まれません。責任をもつことがなければ、関与もあり得ないのです。(p.19)

 

大変そうだけど、刺激的で面白いんだろうなあ。

 

ちなみに、国際バカロレアのガイドブックも、規則ではなくて「枠組み」なんだとよく言われます。

その割にはカリキュラム設計や単元づくりの際にやらなきゃいけない「決まり事」が多いのですが…。

世界中で同じクオリティを維持しようとしたら、ある程度厳格化しなければいけないのかもしれません。

IBが出来たばかりの頃は、ずいぶん緩いものだったけれど、参加国が増え、学校数が増えるにつれて厳しくなっていった、というのはベテランのIB教師から聞いた話です。

イエナプランの場合は、本書を読む限り、IBに比べてずいぶん自由度が高そうですが、それでもこのような「教本」が出てくるあたり、共通するジレンマなのかもしれませんね。どこまでルールでしばり、どこまで学校や教師の自由裁量に任せるか。

 

 

【読書】『シリーズ国語授業づくり 中学校 文学 主体的・対話的に読み深める』

最近、本棚の整理をしつつ、積読本の消化中です。

この本も、買ったときにさらっと読んで、そのままになっていたのですが、改めて読んでみると、いろいろなヒントの詰まった良い本ですね。

 

勤務校では、国際バカロレアのカリキュラムを行っていますが、「国語」にあたる科目名は「言語と文学」と呼ばれ、名前の通り「文学」の学習を重視しています。

 

 

私もそうだったのですが、大学で文学を専攻してきた人ばかりが国語教師になるわけでもなし、国際バカロレアに限らず、中学生に文学を教えるって何をしたらいいの?というとまどいは、多くの先生が抱えていると思われます。

 

本書の大部分はQ&Aで構成されていて、

そもそも「文学作品を教室で読む」ことにどのような意味があるのか。

「作品分析」と「教材研究」はどのように異なるのか。

など、基本的なところから丁寧に解説しています。

 

本書では「文学教材で身につけさせたい力は文学を楽しみ味わう力」だとしたうえで、そのための方法を、

①読解的に文学的文章の特徴を捉える方法

②読書的に生涯にわたる文学との付き合い方を知る方法

 の二つにわけて考えることを提案します。

 

①は、教科書教材をはじめとするテクストを精読し、グループ活動などを通して批判的に読むようなやり方。

国際バカロレアでいう、テクスト分析の課題です。

また②は、ビブリオバトルやリーディング・ワークショップといった、個人の読書体験を深めていく活動にあたるでしょう。

 

これらの二つの方法を、どちらか一方に偏ることなく、バランスよく中学3年間のカリキュラムの中に位置づけていくことが大切だと述べられます。

 

たしかに、言われてみると、従来の国語の授業では、これらの目的が一緒くたになっていました。

そのため、何をやっているのか分からない、どのような力がついたのか実感がわかない、挙句先生の話していることをそのままノートに書き写す、という授業にもなりかねません。

本書で言うように、単元の目的をはっきり区別して、生徒にもっと明示的に示していく必要があるのかもしれませんね。

 

もう一つご紹介。

本書では「読みの深さ」とは何か、ということについても分かりやすく説明しています。二か所引用します。

 

「読みが深まる」とは、読みにおいてテキストの中の部分と部分とがある範囲で新たに緊密に関連づけられることであり、「読みの深さ」はその範囲や緊密さに規定されます。

 

部分と部分とを関連付けることは、読み手がテキストの中に文脈を生み出すことと言い換えることもできます。そうした部分と文との関係がテキストの中で離れているほど、あるいは緊密であるほど、深い読みになっていることが多いようです。

 

そして、そのためにテキストの中から「偏り・欠落・矛盾・飛躍」などを見出していくことが促されます。

 

国際バカロレアの授業内では、文学作品の分析をした後、その分析をもとにした文学論評(コメンタリー)や、小論文の課題に取り組むことがよくあります。

教えていて難しいのは、何が「良い」文学論評・小論文なのか、ということがなかなか生徒に伝わりにくいところです。

感想文みたいな文章になったり、テクストの一部分だけしか参照していなかったりして、どうしても、書きながら教えていく、ということになります。

まずは、ここで述べられているような原理原則を、具体例を交えながら生徒に丁寧に説明していくことで、生徒も課題のイメージがつかみやすいのではないかと思いました。

次やるときには、使わせてもらいます。

 

【読書】『大人が変われば、子どもも変わる 発達障害の子どもたちから教わった35のチェンジスキル』職員室で共有したい!

生徒指導のやり方については、直接的に学ぶ機会がそう多くありません。学校に勤め始めてから、ベテランの先生や先輩教員のやり方を見ながら、経験的に身に着けていくことが多いのではないでしょうか。

または、自分が学生のときに受けてきた生徒指導の経験があるものだから、無意識的に「こういうものだ」と再生産していることもあるように思います。

 

たまたま良いモデルケースに出会えれば良いのでしょうけれど、たいていの生徒指導は今も「管理型」です。

ひどいときには、人権侵害につながるケースもあります。

これらの、生徒の感情を無視した生徒指導、行き過ぎた生徒指導をモデルケースにしてしまった場合は不幸です。

それに気づくためには時間が必要で、その間に多くの子どもたちを傷つけてしまうかもしれません。

 

阿部利彦『大人が変われば、子どもが変わる 発達障害の子どもたちから教わった35のチェンジスキル』(合同出版、2020年)を読みました。

 

つい前置きが長くなったのは、この本を読んで、初任の頃に読みたかった!と思ったからです。

タイトルに「発達障害の子どもたち」とありますが、発達障害の子への対応に限らず、普段学校で子どもたちと接する上で、広く活用できるスキルが満載でした。

 

しばらく前までは、子どもたちを良くしたいという思いから、ずいぶん一方的なことをやっていました。

勉強しない生徒に、なんとかやる気を出させようと三者面談の時に問い詰めたり、

問題を起こした生徒に「改心」させようと、長時間説教したり、

たるんでいるクラスの雰囲気を変えようと、全員の前で怒鳴ったり…

今から思うと、生徒の心情より、自分がこうしたい、ということが優先された行動だったんだなあと申し訳なくなります。

最初の「良く」のところがすでに、こちらの価値観の押し付けなんですよね。

 

例えば、本書の第2章「しかるスキル」には、次のようなスキルが並んでいます。

①子どもに響くしかり方を工夫する

②ポイントを決めて、短くしかる

③質問形式の言葉は使わない

④「裏を読ませる」言い方を減らす

⑤あいまいな表現は避ける

⑥「罰によるコントロール」に依存しない

⑦しかり方のムラをなくす

恐ろしいことに、以前の私は全部逆をやっていましたね。

工夫もなく、長時間にわたり、「なんでこんなことやったんだ!」と問いつめ、…

その当時は良かれと思っていたことが、相当ずれていたようです。

 

ちなみに、質問形式でしかる、というのは学校現場でよく使われます。

「なぜこんなことをやったんだ!」と先生が聞くので、「面白いと思ったからです」と答えたら「そんなことを聞いてるんじゃない!」とまたさらに怒られる。答えようがないので黙っていると、「なにか答えろ!」と怒鳴られる。理不尽ですね。

そのため、国語の授業や哲学対話のときに「なぜ~だと思った?」と私が連発すると、怒られている、と感じる生徒が大勢いるのです。こちらは単に問うているだけなのに。

こういう弊害も起こります。

 

もう一つ、読みながら思い出したのは、注意の仕方についての違いです。

海外の教育実践について学ぶワークショップに参加していたとき、たしかオランダだったと思いますが、講師の先生から、

注意するときは、その子の近くに行って静かに注意する。真剣に注意したい時ほど、小声で説明する。さらに重大なときには、その場で注意することは止め、後で呼び出して個別に話をする。その子のプライバシーに関わる問題だから。

逆にほめたい時には、全員の前で大声でほめる。

という話を聞いたことが印象的でした。

それまでは、しかる時には全員に聞こえるようにしかるのが効果的、その方が他の生徒もやらなくなる、というやり方が自分にとっての「普通」だったからです。

(そういうやり方を本で読んだか、先輩から習ったのか、もう忘れましたが、今でもそういうやり方は行われているのでしょうか?)

打たれ強い男子の場合は、かなり厳しめに怒る、なんてことも言われていました。

一種の見せしめですね。今考えるとひどい話です。

 

こういう経験があったために、子どもとの接し方が自分はずいぶん間違っていたのではないかと、学びなおすきっかけになりました。

 

生徒指導は、本人が良かれと思ってやっているだけに、その問題点や感覚のズレに気づきにくいということがあります。また、他の先生のやっている生徒指導に口出ししづらいのも実情です(ベテランの先生であればなおさら)。

ただ、「管理型」の生徒指導はもっと見直されるべきでしょうし、実際に生徒指導によって傷つく生徒が生まれないようにしなければなりません。そのために教員研修をしたり、全員で共有するガイドラインのようなものを決めて、学校全体で共通認識を作っていくことが必要です。

 

例えば、本書を職員室に置いておいて全員で共有したり、この中のスキルをどれくらい実践しているのかについて読書会をしたり、いろいろと活用できそうです。

 

今回は生徒指導や「しかる」という点に特化した内容を書きましたが、この本には「ほめるスキル」「伝えるスキル」「励ますスキル」など、他にも様々な観点から子どもと接する具体的なアドバイスが載っています。

自分の「思い込み」から距離をとるためにも、若手の先生に薦めたい一冊です。

 

【読書】オススメ!書道の練習本

先日は『石川九楊の書道入門』を紹介しました。

今回はそれ以外に、私が普段自宅での練習に愛用している本を紹介します。

 

幕田魁心『極める!楷書 創作へのみちしるべ』(木耳社)

極める!楷書―創作へのみちしるべ

極める!楷書―創作へのみちしるべ

  • 作者:幕田 魁心
  • 発売日: 2001/01/01
  • メディア: 大型本
 

 まずは、私の師匠・幕田魁心の本を挙げないわけにはいきません。

この本では、「孔子廟堂碑」「九成宮醴泉銘」「雁塔聖教序」といった楷書の古典を取り上げ、作品ごとにその書法、用筆の特徴を解説していきます。

それぞれに手本がついているので、解説を読みながら臨書することで、古典の書風を身に着けることができます。

これは私の通っている書道教室の基本テキストなのですが、独学でも十分取り組めるだろうと思います。

 

筒井茂徳『楷書がうまくなる本』(二玄社

楷書がうまくなる本

楷書がうまくなる本

  • 作者:筒井 茂徳
  • 発売日: 2003/03/01
  • メディア: 単行本
 

この本はすごいです。

先程も挙げた「孔子廟堂碑」「九成宮醴泉銘」などの古典をもとにしているのは同じなのですが、それらを正確に臨書するために、筆の使い方をミリ単位で分析し、解説していきます。

例えば、漢字の縦画ひとつにしても、

鉄柱勢(収筆部で強く押し返す)

垂露勢(静かに止める)

懸針勢(下方に引き抜く)

この3種類をまず挙げ(ここまでであれば詳しい練習本には載っているのですが)それ以外にも

ほぼ寸胴に作る縦画

下方を細めに作る縦画

下方を太くする縦画

中ほどを引き締める長い縦画

下方を太くしてゆく長い縦画

という具合に区分し、それぞれに実例を挙げていきます。

正確に臨書するためには、これくらい注意せよ、ということです。

タイトルからハウツー本のようなものを想定して読むと、面食らうと思います。

それくらい本格派です。

 

この本を読むと、漢字を美しく見せる原理というものが理屈でわかってきます。

その意味で、書道をされない方でも、漢字に興味があるのであれば読み物として楽しめると思います。

 

この本で理屈を学び、見るべきポイントをつかんだあとで、二玄社の中国法書選シリーズなどで練習すると効果的です。

九成宮醴泉銘[唐・欧陽詢/楷書] (中国法書選 31)

九成宮醴泉銘[唐・欧陽詢/楷書] (中国法書選 31)

  • 作者:欧陽 詢
  • 発売日: 1987/11/10
  • メディア: 大型本
 

 

山下静雨『見違えるほどきれいな字が書ける本』(KKベストセラーズ

見違えるほどきれいな字が書ける本 (ベスト新書)

見違えるほどきれいな字が書ける本 (ベスト新書)

  • 作者:山下 静雨
  • 発売日: 2007/06/09
  • メディア: 新書
 

 もっと気軽に、短い時間で上手くなりたい、という方にはこの新書がオススメです。

目次の初めのほうにある「きれいに見える字が超カンタンに書ける12のオキテ」の部分だけでも意識して書くようすれば、ずいぶん変わると思います。

「縦書きはピシッと行の中心を通す」「右肩が上がりすぎた字は見る人を疲れさせる」「力を入れても強い字にはならない」などの具体的なアドバイスが並びます。

過去記事でも紹介しています。

senobi.hateblo.jp

 

根本知『美文字の法則 さっと書く一枚の手紙』(さくら舎)

美文字の法則 さっと書く一枚の手紙 ―ボールペン・万年筆・毛筆

美文字の法則 さっと書く一枚の手紙 ―ボールペン・万年筆・毛筆

  • 作者:根本 知
  • 発売日: 2017/06/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

最近では、手書きで手紙を書くなんていう機会はめったになくなりました。

たまにそういう機会があると、どう書いていいか慌てますよね。

 

書きづらい理由の一つに、前書き、とくに時候のあいさつがあります。

どう書いていいかわからず、結局文例集やインターネットの丸写しになったりします。

 

この本では、手紙をもっと気軽に書いてほしいという思いから、時候のあいさつは季節を表す熟語を書くようにしてはどうか、という提案がされています。

夏であれば「拝啓 夏日清風来(かじつせいふうらい)」という書き出して済ませよう、という提案です。

このアイデアは新鮮でした。

たしかに、前書きをどうするかという問題が一気に解決するばかりでなく、「こなれた」感じもします。

 

この本には、他にもいろんな実例が載っているので、一冊持っておくと、何かあったときにちょっと手書きで書いてみようかな、という気分になれて、オススメです。

 

【読書】『石川九楊の書道入門』書写の授業に活かしたい

書道を習い始めて、もう9年になるのですが、上達への道はまだまだ遠いです。
この夏、どうせどこにも出かけないので、少し時間をかけて学び直してみようかと思いました。

 

その参加にと買ったのが、『石川九楊の書道入門 石川メソッドで30日基本完全マスター』(芸術新聞社、2007年)です。

 

 

 


石川氏は「筆触」という概念を用いて、書を分析し論じることで知られています。

本書でもそのアプローチが活かされ、他の入門書にはないさまざまな工夫がありました。

だいたい、書の書き方を本で説明するのは至難の技です。

穂先の動かし方、筆の沈み具合、スピード、微妙なさじ加減が要求されます。

そして、多くのメソッド本は、お手本と、書き方のコツを言葉で説明するものがほとんどです。

 

石川氏は、横画や縦画などの漢字の点画、部首が、英語でいうとアルファベットに当たるとし、アルファベットを知らないと英単語が書けないように、点画の書法を学ばなければ漢字が書けないと述べます。

 

そして、ここからがすごいのですが(そして文章だと分かりづらいのでぜひ本書にあたってほしいのですが)、点画を書き方を5つの視点から分析し、言語化、視覚化しています。

「骨格イメージ」筆の動かし方の基本ライン

「肉付イメージ」穂先や胴の動かし方

「筆圧イメージ」筆圧の深い、浅いをグラフ化

「速度イメージ」速度の緩急をグラフ化

「思想」どういう心持ちで筆を操作するのかを言語化

 

横画一本にここまで詳しく説明した本は、今まで読んだことがありません。

(30日のうちの、1日目は横画だけで終わります)

小中学校では書写の授業がありますが、なかなかここまで点画の書き方を詳しく教えることは少ないだろうと思います。

その結果、どうやって書けばお手本に近づけるのかが分からなくなり、書道が嫌いになっていく、ということもありそうです。

 

『14歳からの読解力教室』でも述べられていましたが、教師はこれくらい言えば分かるだろうと思いやすく、実は子どもにはほとんど伝わっていない、ということがよくあります。

書写に関しても、もっと理屈から説明していくと伝わることもあるのではないかと思いました。

(そして動画を使えば、もっと伝わりやすくなりそうですね。)

ただ、本書は「入門」といいつつ、少々ハードルが高いです。

例えば、筆者は墨汁を使うことを否定します。

「液体墨や墨汁は、基本的には使ってはいけません。墨をするのが面倒だとか、時間がないときう人は、書をやめたほうがよいでしょう。」

と、のっけから全否定です。

「(墨を)する時間の目安としては三十分以上です。少し長いと思われるかもしれませんが、驚かないでください。書にはゆったりとした時間が必要なのです。墨をするのがめんどうくさいと思っている間は、書はまだまだだめだと考えてまちがいありません。」

普段墨汁ばかり使っている私には、耳の痛い言葉が続きます。

 

なかなかそんなに時間とれないし…と言い訳をしつつ、この本を参考にして、自分の癖や苦手なところを見直していきたいです。