Senobi

私立の中高一貫校で国語を教えています。国際バカロレア、子どものための哲学、ワークショップ型の授業づくりに関心があります。

【読書】『先生は教えてくれない大学のトリセツ』ここにも論文指導のヒントが

先日読んだのは、こちらの本。

田中研之輔『先生は教えてくれない大学のトリセツ』(ちくまプリマ―新書)

これから大学生になろうという人だけでなく、高校生や、なんなら中学生にも知っておいてほしい内容がたくさんありました。

 

大学での学びとは何か

例えば、「大学での学びとは何か?」ということについて、筆者は次のように述べます。

学びとは自分が知りたいという欲求に正直に、好奇心を持ち続け、日頃の生活においても、考え、発展していくような構えのようなものです。学びは、生きていくことと密接に結びついた壮大なプロジェクトだとも言えます。(略)

「学びとは、生き方をデザインしていく行為」そのものなのです。学びは、吸収していく浸透力と、生み出していく創造力、自分だけではなく周りの人を引っ張っていく牽引力を伸ばしていきます。

 今でこそよく分かりますが、このようなことは、自分が学生のときには考えてもいませんでしたね。

高校での受け身の勉強を引きずったまま、大学で「主体的に学ぶ」ということがよく分かっていなかったように思います。

そんな自分の反省もふまえつつ、今の教え子には、もっと早い時期からそういう学び方に気づき、自分を高めてほしいなと思いながら授業をしています。

 

ただ、「主体的に学ぶ」と言っても、具体的にどうすればいいのか、それを伝えるのは難しいものです。

本書は、そのためのヒントをいろいろ教えてくれます。

 

質問メモの作り方

例えば講義(授業)を聞いているとき、多くの学生(生徒)は先生の話や板書をそのままノートに取りますが、それだけでは受け身の勉強です。

私も自分の授業で、黒板を写すだけでなく疑問に思ったことや意見をメモしよう、などと呼びかけますが、なかなか実践が定着しません。

本書では、質問メモのポイントがまとめられていました。

・いつから起きている事柄なのか(時間の視点)

・どれくらいの規模で起きていることなのか(空間の視点)

・同じような事柄は、他の地域や、他の国でも起きていることなのか(比較の視点)

・その事柄は、いかなるインパクトをあたえているのか(影響の視点)

・その事柄に関わっている関係者は誰か(アクターの視点)

・その事柄にはいかなる組織が関わっているのか(組織の視点)

・その事柄が問題であるならば、どのような解決方法が考えられるのか(解決の視点)

・その事柄に対して、あなたはそう向き合うのか(自分事として捉える視点)

 なるほど、ただメモを取れというだけでなく、このように具体的な問いとして示すと、取り組みやすくなりそうです。

『14歳からの読解力教室』に載っていた、方略を明確に示す、という手法と同じですね。

senobi.hateblo.jp

 

また、このような視点をずらす考え方は『教養の書』での推奨されていました。

senobi.hateblo.jp

 

こんなふうに、学びながら疑問を立てたり、発想を広げられるようになると、どんどん学びが自分事になっていくのだろうと期待できます。

 

論文の書く際のヒント

もう一つ参考になったのが、論文の書き方についてです。

まず、問いの立て方について。

問いは、日常生活を過ごすなかで感じた「なぜ?」に注目するところから始めます。

ここまでは、私もよくやりますが、面白かったのは次の視点で、

筆者は、「自分が関わっている集団のなぜ?」と「自分が関わっていない集団のなぜ?」を区別して説明します。

たとえば、自分の所属しているサークルの飲み会でコールがあったとき「なぜサークルでコールをするのか」という問いを立てると、それは「自分が関わっている集団のなぜ?」です。

このように、自分が関わっている集団の当たりまえを疑う方が、関わっていない集団のなぜ?を問うより難しいといいます。

たしかにそうですね。メタ的な視点が必要になります。

高校生に論文指導をする際、問いを立てるためのワークショップで、「自分が関わっている集団のなぜ?を探そう」「自分が関わっていない集団のなぜ?を探そう」というのをやってみたくなりました。

 

他にも、問いを一度キーワード化して、よりよいテーマを考えるという手法も紹介されていました。

本書では、「アルバイトや従業員が楽しそうに働くのはなぜか?」という最初の問いから、「雇用、職場、労働、インターナルマーケティング、サービス産業」といったキーワードに置き換えていき、最終的に「サービス産業におけるインターナルマーケティングの実態と課題」というテーマの論文になった例が紹介されています。

 

論文やレポートの課題をやらせていても、そもそも最初の問いで焦点が絞り切れていないために、どう進めてよいかわからなくなる生徒は大勢います。

これまでも、問いを変えてみたら?とか、もっと絞ったら?などとアドバイスをしていたのですが、キーワードに変換するワークをやってみると、生徒が自分で突破口を見つけられるかもしれませんね。

 

さくさく読める本ですが、有益なヒントをたくさんいただくことができました。